おやすみ世界(切?/血/死)


※姫=豊臣軍
 (半兵衛と同じ様な地位)






夕焼け色に染まる空
手を伸ばしても
到底届きそうもない程に高い
おまけに、どこまでも澄んでいて
あまりにも綺麗だから
私は息がしづらかった


「ね、半兵衛…」

「姫、喋らなくていいよ…」

「空、きれいだね」

「もういい、頼むから今は喋らないでくれ」

「…すごくきれい」

「姫様!」


夕焼けに色に染まる
空と半兵衛と三成の髪
すごく綺麗だから
二人にも見てほしいのに
どうして二人は
見てくれないのだろうか
そういえば、この赤い色は
屋敷の庭にあった何かに似ている
何だっただろうか

嗚呼、そうだ


「庭の…彼岸花だ…」

「姫様!喋っては…」

「…庭の彼岸花が、どうしたんだい?」


三成はまた大きな声で
喋るなって言ったけど
半兵衛は話を聴いてくれるみたい
半兵衛ったら
さっきまで喋るなって
言ってたのにね

そんなことよりも


「似てるの、空の色と」

「そうだね」


庭の彼岸花、
真っ赤に咲いていて
すごく綺麗だったから


「三成は嫌がるかもしれないけど」

「うん」


屋敷に帰ったら
たまには女子らしく


「彼岸花を生けたいの」

「それは素敵だね…」


やっぱり?半兵衛もそう思う?
それでね、上手く生けられたら


「半兵衛も、三成も、秀吉も誘ってね」

「うん」

「お茶会をするの」

「うん」


最近は忙しくて
皆でのんびりすることも
なかなかないから
ゆっくりしたいの
それに、久しぶりに


「三成の点てたお茶、飲みたいし」

「ああ、そうだね。僕もだ」


やっぱり?半兵衛もそう思う?
三成の点てたお茶は
とびっきり美味しいんだよね
半兵衛の点てたお茶も美味しいよね
でも、秀吉のはちょっと、ね…


そうそう、あとそれから


「それからね」

「姫、」

「なぁに」

「もういいよ…」


何がもういいの?
どうしてそんなに
悲しそうな顔をしているの?
半兵衛も三成もどうしたの?
どこか痛いの?
そう聞きたくて
腕を持ち上げるために力を入れる
だけど、持ち上がらない

何でだろう

視線を下げれば真っ赤なお腹
そこに三成の手が乗ってる
三成の手も真っ赤だ


嗚呼、そうか
斬られたんだっけ
いや、撃たれたんだったかな
どうだったかな、わからない
でも、そうか、私


「…死ぬんだ、ね」

「そんなこと…っ!!」


“ない”とは言えなかった三成
三成は相変わらず正直者だね
いつも、どこまでも真っ直ぐ
そういうところ、私は好きだよ
だけど、少しくらいは
曲がることも覚えないと
後で辛くなっちゃうよ?
嗚呼、それから
もっとたくさん食べないと
絶対に倒れちゃうよ?
秀吉の左腕なんだったら
ご飯くらいちゃんと食べなさい


「姫、君は生きるんだ。こんなところで死ぬべき人じゃない」


あら、珍しい
あの半兵衛が泣きそうだわ
明日は雪かな?
そういえば、
半兵衛は嫌な咳をするよね
ちゃんと寝ないからだよ
今日からは早く寝てね
じゃないと、私が秀吉に
言いつけてやるんだから

嗚呼、ほら、半兵衛ったら
軍師様なんだから
そんな簡単に泣かないで

嗚呼、そうだ


「みつなり」

「はい」

「手、汚しちゃってごめんね…もうはなしていいよ」

「しかし…!」

「どうせ止まらないから」


ほら、もう、三成まで
そんな情けない顔して
男なんだからしっかりしなさいよ
そんなんじゃ秀吉の力になんて
なれっこないよ?


「止まります!必ず止まります!」


そんなに怒鳴らなくてもいいのに…
だけど…本当だ、
止まらないなんて嘘
そうだね、もう止まるね
私のことは私が一番
わかってるんだから
だから、もうとまるね


「ね…はん、べ…」

「姫、喋らないでくれ…お願いだから」

「そら、きれいだね……また、あしたも…みれる、かな?」

「っ…何を弱気になっているんだい?見れるさ。いや、見るんだ」

「だと、いいな…」


嗚呼、あと私は
何を言わなきゃいけないんだろう
言いたいことはあるはずなのに
眠くて眠くて、
何だかよくわからなくなってきた

三成はちゃんと食べて、
真っ直ぐで、お茶飲みたいな、
半兵衛の咳は嫌い、
ちゃんと寝ないと、
秀吉は練習しなきゃ、
言いつけてやるから、
大好きだよ、次の戦略は、
楽しかったよ、屋敷の庭の、
お茶会は、ありがとう、
まだ寝たくないな、
まだここに、大好きだから、
まだそれから、それから、
それで、まだ、ここで、
だから、はなれたくない、


「ほら、姫。血が止まってきたよ…大丈夫、君は助かるから」

そうね、とまるね

「…姫?」


きっとこれがさいご


「はんべ、もう、ねむい…」

「なりません!姫様っ!!」

うるさいなあ、三成は
眠いんだから寝かせてよ

「姫、寝ちゃ駄目だ、ほら起きて、姫、姫…!」

もう、半兵衛まで
私はむう眠いんだから
ねかせてよ


それにしても、
なんてきれいなゆうやけだろう
やっぱりかえったら
ひがんばなをいけよう
きれいだ、すごく
ああ、なんだか
いまとってもしあわせ

ほら…ふたりとも
みてごらんよ


「…っ姫!!」

はんべえったら
さけんだりしてどうしたの?
またあした、いつもみたいに
おこしてくれればいいんだから

つぎにめをあけたとき
みんながいればいいから
だから、

それまで、

ちょっとだけ、


それで、


またあした


だから、



おやすみ




おやすみ、わたしの、せかい




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