ぼくのきず(切?/微糖/血/パロ)


※転生パロ
 BGM⇒セ・ツ・ナ(作詞/作曲:沙P)






目を開けるとそこは
だだっ広い草原の様だった
しかし草原と言うには
些か違和感があった
無造作に地面に突き刺さる
刀や槍、転がる鎧は
現実離れしていた

初めて目にする景色に
戸惑いを隠せない

ここは何処なのか
皆目検討がつかなかった

けれど、
私はこの場所を知っている
どこかで見たことがある
漠然とそう感じた

途端に私は
“行かなくてはならない”という
訳のわからない使命感に駆られた

何処に行かなくてはならないのか
何をしに行かなくてはならないのか
全くわからないが足は進みだす

私はその景色の中を一人、
歩きだした


ふと空を見上げると
月が二つ闇に浮かんでいた

“あぁ、これは夢か”

いくらなんでも
月が二つ昇る
なんてことはあり得ない
私は、この世界は
私の夢の中だと理解した


「何処だ、何処にいる…?」


私は何かを探している様だった
たしかに、この足で
地面を踏み締めて歩く感覚はあるけれど、身体はまるで
別人に乗っ取られたかの様に
私の言うことを聞かない
夢だからだろうか
言葉も私のものだが
私の意思ではない

私が地面を踏み締めて歩く度に
ガチャガチャと音が鳴る
左手に持つ刀が揺れる
どうやら夢の中の私は
武士の様な出で立ちをしているらしい


「何処だっ!一体何処にいる!?」


私は“誰か”を探している様だ
必死になって探しているのだから
きっと大切な人物なのだろう


歩いて歩いて歩いて歩いて
ようやく立ち止まった
私の目の前には
鮮やかな花が一輪咲いていた
たった一輪なのに
芳しい匂いが辺り一帯に
立ち込めていた


私はその花に触れ様と手を伸ばした
しかし、触れる寸前に
それは一瞬にして枯れて塵となった

私の手は何にも触れることなく
ただ、虚しく宙を掴んだ


「っ待て、行くな───!」


私は誰かの名前を叫んでいた
私にはわからなかったが
確かに、叫んでいた
何度も、何度も、同じ名前を


二つあった月はいつの間にか
一つだけになっていて
私の服装も
武士の様なそれではなく
いつもの私服になっていた
しかし、左手には
しっかりと刀が握られていた

私はそのまま
呆然と立ち尽くしていた


どのくらい経っただろうか
地平線の向こうから
朝が来る予感がした

私は何故かその予感に恐怖した
そして、朝から、予感から
逃れる様に走り出した

けれど、どんなに走っても
走っても走っても走っても走っても
その予感は遠ざからない


私はついに足を止め
刀を抜き、振り返りざまに
一文字に薙いだ

刀を使ったことはない
それなのに何も戸惑うことなく
鞘から抜き、振るうことができた

何かに刀があたった
肉の裂ける感覚が、
飛沫の飛ぶ光景が、
やけに生々しく、懐かしかった

どさり、と何かが地に落ちた
私はその何かを確認するために
視線を落とした

そこにいたのは─…



***



「…ッ!?」


がばり、とベッドから跳ね起きた
チクタクチクタク…
時計の動く音がする


「…夢、か」


寝間着はしっとりと
汗を吸っていて
不快感がわいた

「何故…」

自分の隣を見やれば
恋人の姫がいた
規則正しく上下する胸と
聞こえてくる寝息

あそこに姫がいたのだ─…
私が、殺した─…?

夢の中で
私が振り返りざまに斬ったのは
確かに姫だった


「一体何だと言うんだ…」


私は頭を抱えた


「知りたい?」


突如聞こえたのは
姫の声だった


「…起きて、いたのか」


そう問えば、
“まぁね”と返ってきた
どうやら狸寝入りをしていた様だ


「あの夢はね、記憶だよ」


この女はあれの一体どこが
記憶だというのか
私はあんな場所に行ったことは
今まで一度もない、ないはずだ

…いや、待て
姫は何故、私が
夢を見ていたとわかるのか
私はその話は
一切していないはずだ


「…意味がわからん」


心臓の鼓動が
大きくなった気がした


「だから、記憶だよ。前世の。三成が殺したのは、前世の私」

「記憶…前世の……私が…………」

「そう」


長い沈黙が流れた
時計の針が動く音だけが
やけに耳につく


「三成」

「…なんだ」

「ごめんね」


姫が何を言っているのか
私にはわからなかった
頬に熱い何かが流れた


「何故、私を裏切った…」


何が何だかわからないけれど
言葉はスルスルと口から出ていく


「裏切ったつもりはなかったんだけどなぁ…」

「貴様は家康の!あいつの、元に…」


あぁ、そうか、あれは
やはり私だったのか


「何故、私から離れた…」

「ごめんね」

「もう、いなくなるな…」


私は姫を抱き締めた
外は朝日が昇ったのか
うっすらと白んでいた


「私から離れるな、否定は認めない…」


この言葉は、感情は姫の言う
“前世の私”の意思か
はたまた“今の私”の意思か
わからなかったが
今度こそこの温もりを離すまいと
私自身に、誓った





昔の僕が残した傷は
君にまた見つけて貰える様に
僕が自分でつけたものだった



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