君の名を教え給え
(無糖/シリアス?/死)








自分はもうじき死ぬだろう

林の中の一本の木に背を預けて
浅い呼吸を繰り返しながら思う
あの派手な頭の忍が投げた苦無に
毒でも塗ってあったのだろう
手足が痺れて意識もぼんやりしてきた
目もほとんど見えていない
それに、傷口からは
止めどなく血が流れている

自分はもうじき死ぬだろう
しかしまだ死ねない
まだ死ねないのだと緩く唇を噛んだ


ガサリと草花を踏みしめる音がした
きっと腹をすかせた獣だろう
自分が死ぬのを今か今かと
待っているに違いない
近づいてきたら目でも潰してやろう、と
痺れていうことをきかない手で
苦無を持ってみた

ガサリ、ガサリと気配が近付いてくる
そして、私から数歩先で止まった


「卿の名を教えてはくれないかね」

獣がしゃべっているのだろうか
目を凝らしてみても
ぼやけた視界と頭では
何も分からない

「……生憎、名乗る名、なんざ…もって、ないんで…」

なんとか返事をして笑ってみせる
笑えているかはわからない


「卿は名無しなのか」

目の前の何かが応答した

名がない訳ではない
ただ、自分の名を知るのは
この世で主だけでいいし
忍の名など、あるようでないのだ
だから、名乗らない


「聞いているのかね…?」

名を問い続けた男、松永は
木に背を預けて薄く目を開けて
眠っているくノ一に近付き

「…名くらい教えてもらいたかったのだがな、姫」

くノ一の目元にそっと手をやり
彼女の瞼を下ろした


松永以外、誰一人として
くノ一の名が呼ばれたことを知らない



君の名を教え給え




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