夜に囚われた(切?/甘?/死?)








僕が姫の部屋に入り
彼女が横たわっている布団の
枕元に腰を下ろすと
姫は頭をこちらに向けて呟いた

「私ね、夜が好き」

布団にくるまりながら
可愛らしく笑う姫を見て、
僕の頬は緩んだ

どこからどう見ても
健康的な女性の笑顔だ
初対面の人間が見たとしたら
病を患っているだなんて
想像できないだろう


「半兵衛は?」

彼女が首を傾げて
可愛らしく訊ねるので、
僕も好きだよ、と
姫の頬を撫でながら言った

すると彼女が嬉しそうに
そう、と言ったので
僕も、そう、と返した


それから暫くは
お互いが呼吸をする音と
外で風が草木を揺らす音しかしなかった


「でもね、」

姫はいきなり話し出した

「たまに夜がものすごく怖くなるの」

驚くくらい静かな、
弱々しい声で呟いた彼女に
僕はびっくりした
どうしたのかと顔を除き込んでみれば
姫の表情は
まるまる抜け落ちたかの様に
無表情で、虚ろだった
僕は心臓が跳び跳ねるのを感じた


「……何故?」

やっと絞り出した声は
自分でも可哀想なくらい掠れていて
どうにも情けなかった

僕の問いに
彼女は天井を見上げて
囁く様な声で答えた

「夜に捕まってしまいそうな気がするの」

今だってそうよ、
そう続けた姫は泣いていた

僕はいたたまれなくなって
彼女の額に接吻を落とた
優しく頭を撫でて
指先で涙を拭って
それから、
大丈夫だからお休み、
と耳元で囁いた

すると彼女は小さくうなずいて
ゆっくりと瞼を閉じた

僕はそれを確認してから部屋を出た


次の日の朝、
いつまで経っても
起きてこない姫を起こしに、
部屋まで行ってみたが
やはり彼女は起きなかった



どうやら彼女は夜に囚われたらしい




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