知りたかった言葉(切?/暗)


※姫=西軍,女武将






─わからなかった


「ねぇ三成」

「なんだ」

「さっき金吾の所で言ってたアレってどういう意味?」


─だから知りたかった


「アレとは何だ」

「憎悪が永劫に輪廻する、ってやつ」


─どういう意味なのか


「言葉通りだろう」

「いや、それが分からないんだってば」

「分からないのならそれまでだ。行くぞ、刑部が待っている」

「え、ちょ…待ってってば!」



***



戦場を駆け抜けていた私に
悲報が届いた

─西軍が、負けた

総崩れとなり撤退していく仲間なんて
どうでも良かった

私は流れに逆らって
家康のいるであろう場所へと走った


「嘘だ、西軍が負けたなんてっ!」

走りながら吐き捨てる

西軍の敗北、それすなわち
大将が降伏した、
もしくは死んだということだ
しかし、西軍の大将は誰だ?
あの三成だ
三成に限って降伏するなど
有り得ないことだ

そうなると、残るは…─


「有り得ない…!三成に限ってそんなことっ!」

私は頭を振って
一瞬浮上しかけた考えを追い払った


戦場を走り続けていくと
目の前に家康の陣が見えてきた
この中に三成はいる

「三成っ!!」

陣に飛び込んで異変に気付く
静か過ぎる

そうだ、おかしいじゃないか
西軍の一員である私が
何の障害もなく本陣に辿り着けるなんて
何故…─?

そう思ったのと同時に
眼球を通して目の前の光景が
答えを示した


「姫か…」

山吹色の頭巾の様なものを被り
座り込んでいる家康
その前に横たわっているのは、誰だ?
胸に大一大万大吉を刻んだ甲冑を
着ていたのは、誰だ?
西軍の大将だったのは、誰だ?

私は知っている

「みつ、なり…?」

そうだ、三成だ
では何故、横たわっている?
何故、眠っている?
何故、動かない…?

理解できない、したくない
これは嘘だ、幻だと
頭が否定する
けれど否定すればするほど
頭は冴えていって
三成が横たわっている訳を
家康が生きている訳を
事のすべてを、理解した


「姫、ワシは…」

頭巾の様なものを被ったまま
スッと立ち上がった家康が
私に腕を伸ばし近付いてきた

家康の伸ばした腕が
その腕が、秀吉様を殺した
その腕が、三成の心を奪った
その腕が、三成を狂わせた
その腕が、三成までも殺した

「ッ寄るなぁぁああぁ!!」

私は叫んで手にしていた刀を振り回した
家康は立ち止まり
それ以上近付いてこなかった


刀を振り回すのを止めても
家康は近付いてこなかった
それを確認してから
私は覚束ない足取りで
刀を引き摺りながら
三成の隣へと向かった

「嘘だ、嘘だ、嘘だ…三成が、三成が……」

私は今、ちゃんと
地面を歩けているのだろうか
酷い目眩がする

「三成…みつなり……」

横たわる三成の隣に座り込む
カラン、と手から刀が抜け落ちた


「三成、ほら…起きなってば……家康を斬滅するんでしょ?ねぇ、三成…三成ってば…っ!!」

身体を揺さぶっても、反応がない
手を握っても、温もりがない
胸に耳を押し付けても、
音が、しない

「う、そ……三成、はやく、はやく起きなって、家康が、そこに…家康、家康がっ!」

「姫、もうよすんだ…」

いつの間にか私の真後ろにいた家康が
私の腕を掴んだ

秀吉様を殺した、あの腕が
三成の心を奪った、あの腕が
三成を狂わせた、あの腕が
三成までも殺した、あの腕が
私の腕を、掴んだ

私は咄嗟に刀を掴み
家康の腕を斬りつけた

「っ姫!」

家康は反射的に避けた
傷は浅い
三成はもっともっと
深い傷を受けたのに

「家康、家康………許さない…許さない許さない許さない許さない!私はお前を許さない!!」

私は刀を握り直し
家康に向けて地を蹴った



─知りたかった言葉

 いつか三成が言っていた
 “憎悪が永劫に輪廻する”
 その言葉を、私は身をもって知った




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