クロロホルムを吸い込んだ
(病/狂/暗/パロ)



※大学生パロ 自傷あり






やっと講義が終わった

携帯電話を開き確認すると
着信が32回とメールが27通
どの着信もメールも
家で待っているはずの
姫からだった

まずいと思った


「やれ、三成よ、左様な顔をしてどうした」

近くに座っていた友人の刑部が
席を立ち私に近付きながら問うた

「すまない、この後の講義は…」

「あいわかった。欠席するのであろ?」

私が皆まで言う前に
刑部は頷きヒラヒラと手を振った

「早に姫の元へ行ってやるがよかろ」

私はもう一度
“すまない”と言って
早急に荷物をまとめ
講義室を飛び出した


駅まで走り改札を潜り抜けて
今にも閉まりそうな電車に駆け込んだ

ガタンゴトンと揺れる電車は
いつもよりも遅く感じた

速く速く、と焦りが募る
携帯電話がチカチカと光り
メールが来たことを知らせる
姫からだった

私は慌てて携帯電話を開き
メールを確認する
そこにはたった一言
“ごめんね三成”と書かれていた


***


電車を降りて
自宅アパートまで走る

信号も車も無視して
ただひたすら走る、走る、走る

息を切らせながら走って
辿り着いた自宅アパート
乱れた息もそのままに
自室である二階の角部屋まで
足音も気にせず、階段もすっ飛ばして
そうしてやっとゴールイン

鞄をあさって鍵を取り出し
鍵穴にさして回す


「姫っ!!」

「みつなり…」

部屋に飛び込むと
玄関を入ってすぐにある台所で
座り込んでいる姫がいた

「みつなり、三成、三成…っ!」

目の前の光景に泣きたくなった


私を見るなり泣き出した姫は
その手にあった赤い包丁を投げ出し
血にまみれた細い腕を
必死にこちらへ伸ばしてきた

私は素早く靴を脱ぎ
その腕ごと姫を抱き締めた

「三成、三成、三成…」

「また、切ったのか…?」

「ごめんね、ごめんね…」


姫は不安になると
自身を傷付けてしまう嫌いがあった

けれど最近は落ち着いていたし
もう切らないと約束もした
だから私は三日前から
長らく休んでいた大学へ
再び行きだした

昨日、一昨日は
私が帰るまで何もなかった
今日も何もないだろうと
そう思っていた

しかし今日、事が起きた


「ごめんね、約束守れなくてごめんね…お願い嫌いにならないで…っ」

腕の中で泣きながら懇願する姫に
私はいつになく安心し、喜びを感じた

本当は昨日、一昨日と
何もなかったことが不安だった
私はもう必要ないのか、と

けれど違った

やはり姫には私が必要なのだ
今日それが証明された
そう感じて、安心した
そう感じて、泣きたくなった


「もう謝らなくていい、手当をする。立てるか?」

「うん…。三成ごめんね、ごめんね……だから、嫌いにならないで…お願い、お願い……っ」

「私が姫を嫌いになることなど、永劫ありはしない」

私は姫をそっと立たせて
手当てをするために
一緒に救急箱を取りに行った


姫の手当てをしながら
後で刑部に連絡して
退学届けを持ってきてもらおう
と、上がりかける口角を
必死に押さえ込みながら
じんわりと痺れる頭で考えた



クロロホルムを吸い込んだ




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