君の音に沈む(悲/死/血)
※姫視点 (こっちは三成視点)
─キィンッ キィンッ
刀と刀がぶつかり合う音がする
大勢の人々と
馬の駆ける音がする
銃弾が放たれる音がする
断末魔の叫び声が聞こえる
戦場の隅の林の木に
背を預けながら座る私は
目を瞑りただただ、
音だけを聞く
否、正確には
目を開けていられないから
音を聞くことしかできないのだ
「─はっ、はっ…はっ……」
息がしづらい
流れ弾が当たった私の腹部は
真っ赤に染まっていた
血が、止まらない
痛みに耐える為に
目を瞑り、歯をくいしばる
わかるのは音だけで
どれも、ここが
戦場であることを示す音だった
私の聴きたい音は、ない
「─…みつな、りっ」
痛みの中、口にした言葉は
私の想い人であり
我等が大将、石田三成、
鋭さと危うさをその瞳に宿して
戦場を駆け抜ける
最期に聴きたかった音の持ち主
その人の名前
名前を口にしたところで
彼がやって来る訳ではない
そんなことはわかっていた
それでも、口に出さずには
いられなかった
段々と、周りの音が
遠退いていき
─あぁ、死ぬのか
そう思った
不思議と恐怖はなかった
そんな中、
こちらに近付いて来る音が
やけにはっきりと聞こえてきた
馬が地を蹴る音と
「姫ッ!!」
私を呼ぶ音
その音は、とても心地好かった
閉じてしまいそうになる
重い瞼を無理矢理押し上げて
なんとか音を目で確認する
霞む視界の中に見えたのは
馬に跨がり、
敵を薙ぎ倒しながら近付いて来る
三成だった
「姫ーッ!!」
一番聴きたかった音が
私の名前を呼ぶ
その音以外の音は
何一つ聞こえなかった
私の世界は
その音だけだった
ゆっくりと墜ちていく意識の中
その音だけは消えなかった
─君の音に沈む
最期に聴けて、よかった
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