変わっちまったカナシミに(切?)


※姫=元豊臣傘下






今、私が所有する城の中は
妙な緊張感を孕んでいて
驚く程静かだ

理由は簡単
ここには東軍大将徳川家康が来ているから

けれど、ただ遊びに来たのではない

「姫、ワシと共に戦ってはくれないか?絆を結び、太平の世をつくるために」

同盟を持ち掛けに来たのだ


私は目の前に立ちはだかる家康を
きつく睨み付け、刀の柄に手をかける

─何が絆だ
 何が太平の世をつくるためだ

「他人ん家に奇襲の如く乗り込んできておいて、よくもまあそんなことが言えるな」


家康がこの部屋に着く少し前に
城下の人と家臣が何人かが
殺されたと報告があった

絆だ、太平の世だと叫ぶ奴が
私の大切な人達を殺した

怒りと悲しみが沸き上がった

大切な人達の死に対しても
悲しみを感じたが、
何より家康自身に対して
悲しみを感じた


「あんたもあの頃から随分と変わったんだね」

あの頃、
まだ秀吉様も半兵衛様もいて
家康と三成と私も
豊臣軍として過ごしていた時
家康はよく笑った
けれど、あの頃の家康は
今みたいには笑わなかった

「姫、お前は三成と同じで昔のまま変わってないな」

「黙れ…!」


柄を握る手に力が籠る

悔しかった
変わっていないと言われたことが、
今と過去の両方を否定されたみたいで

悲しかった
変わってしまったあいつを見るのが


「そう殺気を立てないでくれ。ワシは殺しに来たんじゃない。同盟を結びに来たんだ」

家康はあの頃とは違う笑顔を貼り付けて
つらつらと話し出した
自分の考える太平の世とやらを


吐き気がした

「…あんたの言葉は偽善じみていて、ただの理想論にしか聞こえない。…とにかく、同盟なんざ真っ平御免だね」

私はそう言い放ち刀を抜いた

「気に入ってもらえなかったか?」

私の返事を聞いた家康の顔が
僅かに歪んだ
その寂しげな表情は
あの頃の家康と同じだった


「っ…気に入らないね。三成の話より気に入らない。だから私は東軍にはつかない」

スッと刀を構え家康を見据える

先日三成から
同盟を申し込む手紙が届いた
その手紙の内容も
気に入らなかったが
今の家康の話の方が
もっと気に入らない

気に入らない
変わってしまったあいつが気に入らない
変わってしまったくせに
あの頃と同じ顔をするあいつが


「とにかく、分かったらさっさと出てい…っ!!」

一瞬だった
みしり、と骨が軋んで
腹を抉る様な拳が
私を壁に叩き付けるまでは
本当に一瞬だった


「なら仕方ないな…姫、ワシは全力でお前の考えを変えさせる!」

そう言う家康の顔は
私の知らない人だった



─変わっちまったカナシミに

 何で変わってしまったんだ
 あんたには変わってほしく
 なかったのに…この馬鹿野郎

霞む視界の端で見た家康の顔は
やはり私の知らない人だった


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -