器用な不器用さん(切?/微糖?)


※姫=元就の正妻(正室)




先程、元就様が
戦からお戻りになりました
戦には勝ったそうです
さすが元就様、
わたくしの自慢の旦那様です

元就様に続き
皆様お戻りになりました
けれど、先日たまたま
廊下でお話しした
あの兵士さん達は
お戻りになられませんでした


その夜、元就様は
近くの川辺に行く、と仰いました
ですから、わたくしも
お供することに致しました


川辺につくと元就様は
笹舟をお作りになられました

そして元就様はわたくしに
それを見せるでもなく
ただ無言で川の流れにすべらせて
行方を追っておられました

その様子を見ていたわたくしが
悲しい感じが致します、と呟くと
元就様はわたくしの言葉に
少し驚いた様に息をのみ
ぱっと振り返り、しばらくの間
わたくしを見つめておられました
けれど、すぐにまた
笹舟の行方を追われました


それから、
その笹舟が見えなくなると
また新しい笹舟をお作りになって
また川の流れにすべらせて
行方を追っておられました

わたくしはまた
悲しい感じが致します、
と呟きました

すると元就様は今度は
わたくしに背を向けたまま
わたくしを見ることなく
なら泣けばよかろう、と仰いました

ですからわたくしは泣きました
元就様のお背中を見ていたら
何故だかわたくしが
泣かねばならぬ気がしたのです


わたくしが泣いている間
やはり元就様は振り返ることはなく
ただただ笹舟をお作りになり
川の流れにすべらせておられました


どのくらいの時間が
経ったのでしょうか
わたくしは随分長い間
泣いていました
そして、わたくしが泣き止んだ頃
元就様は
手にしていた笹舟をすべらせ
三百七十二、と
小さく小さく呟かれました


わたくしが、
三百七十二とは何でございますか、
と元就様のお背中に
声を掛けてお訊きすると
元就様は黙ってこちらへ振りむき
そうして一言
捨てた駒の数よ、と仰いました

それから短く、帰るぞ、と続け
わたくしの目の前を通り過ぎ
歩いて行かれましたから
わたくしも後を追いかけました


人は皆、元就様を冷酷な方だとか
鬼の様な方だとかと仰いますけれど、わたくしは
三百七十二隻もの笹舟を
お一人でお作りになった元就様が
冷酷な方だとか鬼の様な方だとか
そんな風には思えませんでした


ただ、
手先は驚く程器用なのに
泣くことに関しては
驚く程不器用な方なのだと
そう思いました


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