人生論(切?/甘?)


※姫=豊臣傘下






ダンダンダン、と
廊下を物凄い足音をたてながら
半兵衛の部屋まで駆ける

所用で二日前城から出ていた私は
先程、戻ってきた
そして息つく間もなく
女中から“半兵衛が倒れた”と聞いた

部屋までの廊下が
恐ろしく長く感じた


「ッ半兵衛!」


スパンッと戸を開けると
そこには布団に座りながら
悠長に兵法の書物を読んでいる
倒れたはずの半兵衛がいた


「姫か…そんなに慌ててどうしたんだい?」


ずかずかと部屋に侵入し
すぐ側まで近寄って
不思議そうにこちらを見上げている半兵衛を黙って見下ろす


「倒れたんじゃ、なかったの…?」


声が震えた


「女中さんが、倒れたって言ってたから…だから、心配で…心配、で…なのに、本なんか呼んで…っ」


いつの間にか出てきた涙が
半兵衛の読んでいた本に落ちて
文字が滲んだ

あぁ、怒られる

そう思ったのに
半兵衛は気にすることもなく
ただまっすぐに私を見上げていた


「珍しいね、姫が泣くなんて」

「泣いて、ない…っ」


私は溢れてくる涙を必死に耐えた


「僕が死んだとでも思ったのかな?」


けれど、それも半兵衛の一言で
無意味なものになってしまった

“死”

その一言が胸につき刺さって
耐えていたものは呆気なく崩壊した

半兵衛の横に座り込んで
声を上げて、泣いた
久しぶりに、泣いた


「…泣かないでくれるかな?」


そんな私の頭を
半兵衛はあやすように撫でる

その手は私の手よりも
白く冷たいけれど
確かに温もりがあって
脈を打っていて、
生きていると実感した


私の頭を撫でながら
半兵衛様は静かに、
しかし、強く、言った


「人の命など、遅かれ早かれ必ず尽きるものだ。だからこそ、その限りある命をいかに華やかに飾って散らせるか…。人生とは、そういうものだと思うんだ」

─だから、僕はまだ死なない
 秀吉の、僕の夢のために
 まだ、死ねない


そう言って綺麗に笑った
半兵衛の笑顔を、紡がれた言葉を、
私はきっと、命が尽きたとしても、
永遠に、忘れることはないだろう

決意を固めた様な、
それでいて諦めた様な、
楽しそうな、悲しそうな…
いろいろな感情が
混ざりに混ざって
泣き出す寸前で
必死に笑っている様な
その切ない笑顔と
彼の人生をかけた夢と言葉を



 人生論
  僕の思う“人生”とは



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