月の居ぬ間に(切)


※姫=秀吉の養女
 一部女性を蔑む様な表現あり






開け放った襖と障子の向こうには
月が出ていた
微妙に欠けた月は満月ではない
明日は満月だろうか

部屋からぼんやりと
月を眺めていた半兵衛は
ゆっくりとまばたきをし、
ふと思った

今夜の城内はやけに静かだ
そういえば昼の城内も静かだった
昨日までとまるで違う

では具体的に何が違うのか

考えて、気付いた


廊下をバタバタと駆けていた
騒がしい音が
縁側で居眠りをしていた姿が
勢いよく襖を開けて
勝手に部屋に入ってくる姿が
少しは休め、と
僕に怒鳴り散らす声が
太陽の様な存在が
姫が、いないのだと


姫は今朝、豊臣を離れた
つまるところ政略結婚だ

取った取られた、なこのご時世
好いた人と結ばれる
なんてことは珍しい
しかも、姫は養子でこそあれ
秀吉の娘にあたる人物だ
そんな彼女が町娘の様に恋愛をし
結婚など出来るだろうか

答えは否だ


姫は道具として嫁がされたそう表現しても何ら不思議はない


「仕方のない事だったんだ…」

月を眺めたままの半兵衛は
誰に言う訳でもなく
ただ呟き、また考える


“全ては豊臣のため”

秀吉の考えに
三成君も当事者の姫さえも
異議を唱えなかった
理解し、納得していた

僕だって、そうだ
嘘なんてない


そう思い、
考えるのを止めようとして
気が付いてしまった


では、何故“仕方のない事”と
思ってしまったのだろうか
それが当たり前で
本当に理解し、
納得していたのなら
そんな諦めに似た物言いは
しなかったのではないだろうか、と


嘘なんてない
ないはずだ
あってはいけない


月が雲に隠れた


しかし、仮に一つだけ…

雲に隠れた月を見つめながら
半兵衛は思った

一つだけ嘘があるとするならば
軍師,竹中半兵衛ではなく
ただの僕、竹中半兵衛は
本当は姫を離したくなかった


まだ雲は月を隠している


しかし、何もかもが今更だ
そもそも、元からこの手の内に
なかったものを離さないなんて
端からできない話で、
元から掴んでいないそれを
掴み留めておくことなど
できやしないのだ
だから、姫がいなくなったことも
何とも思わない
好きだったなんて一時の迷いだ
そう思わなければいけない
そうでないと
僕は僕でいられなくなる

「たぶん、きっと、僕は君を愛していたよ」


再び月が顔を出した


「君の、新たな門出に…」

僕は右手で杯を掲げるフリをした



月の居ぬ間に
君への想いを吐き出した



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