をちかたびと (切)


ずっとずっと遠く
空と海と地の果てにいる
君にお尋ねしたい


***


まだ太陽も昇りきらない
静かな静かな朝

─カツ、カツ、カツ…

章樫館の廊下に足音が1つ
その足音はある部屋の前で止まった


「失礼するよ」

一言断ってからドアを開け
部屋へ入る影
章樫館に住んでいる姫である


「今日も何も変わらない静かな朝だ」

しかし、その言葉に返事はない
理由は簡単である
誰もいないからだ
正確には
誰も住んでいない
ただの空き部屋だからである

姫は窓際に行き閉めてあった
カーテンを開けた
静かな朝、静かな部屋に
カーテンがレールを滑る音が
大きく響いた

「もうじき日が昇るね」

姫は誰かに語りかける様に
綺麗な唇から音を紡ぐ
勿論、返事はない

白んでいく外を眺めながら
ベランダへ続く窓を開た
朝の冷たい空気が姫の頬を撫で
部屋に入っていった

「また君のいない1日が始まるよ…なんてね」

姫は自嘲する様に笑い
天を仰いだ


どのくらいそうしていたのだろうか
気が付いた時には
外は明るくなっていた
日が昇った様だ

「…そろそろ窓を閉めようか」

天から窓へ視線をずらすと
視界の端で何かがキラリと光った
反射的にそちらを見る
そこには小さな植木鉢があり
白い花が咲いていた


「こんな所に植木鉢なんてあったのか」

─気付いていたら水をやったのに
ぼんやりと思いながら
裸足でベランダへ下り
植木鉢に植わっている
白い花の前にしゃがみこんだ


どうやら朝露が
反射して光ったらしい

姫は白い花へ手を伸ばし
そっと朝露を落とした

すると目の前に
花に水をやっている
この部屋の主人が現れた
ぼうっと見ていると
部屋の主人はこちらを向き
穏やかな顔でにこりと笑った

姫はゆっくりと
まばたきを1つした
目を開けると、もうそこに
部屋の主人はいなかった

白い花はまた濡れていた

「君は花が好きだったのかな…?」

─知らなかったよ
呟いた言葉はやけに虚しく響いた


「さて、この花は一体何という花なんだろうね」

姫はようやく立ち上がり
ベランダから部屋へ戻った
そして、窓を閉め
部屋から出ていった


─カツ、カツ、カツ…

廊下に響く足音に紛れて
言葉と涙がポツリとこぼれた

「双熾…君なら、知っているかい?」



─をちかたびと

 ずっとずっと遠く
 空と海と地の果てにいる
 君にお尋ねしたい
 この白い花は
 一体何の花なのか









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