運命からの逃亡 (狂/暗?/無糖)


※姫が狂ってる






雨の降る夜だった

喉が渇いたから何か飲もうと
冷蔵庫を開けてみるが
丁度飲み物を切らしていた
そこで、ラウンジにある自動販売機まで飲み物を買いに行った

エレベーターに乗り
ラウンジまで降下する
到着の合図と共に開くドア

誰もいないと思っていたラウンジには姫たんがいた


僕は飲み物を買うという目的をどこかに置いて、姫たんに話しかけた

「こんばんは、姫たん」

「あぁ…残夏か」

声を掛ければ
ゆっくりと視線を動かして
僕を捉えたきれいな瞳
それはどこか熱をはらんでいた

いつもと違う様子に内心驚いたが
彼女の目の前の机に転がる
大量の酒の空き缶を見て
状況を理解した

「もー、姫たんったらそんなに飲んで…何かあったの?」

僕は彼女の前の席に腰かけ
この酔っ払いをどうやって自室に帰そうかと考え出した

姫たんは悪酔いして
暴れる様なタイプではないから
いざとなったら
抱えて帰ればいいだろうか…
しかし、普段は滅多に
酒を口にしない彼女が
何故こんなに飲んだのか


「ねぇ残夏、残夏は運命って信じる?」

僕の思考は
姫たんの声で途切れた

「運命?」

「そう、運命」

姫たんは話し出した

自分の中にあるものと
同じものに出会った時、
人はそれを運命だと言う
どうしようもないことに
ぶち当たった時、
人はそれを運命だと言う
自分は運命という言葉が嫌いだ
運命とは実に都合のいい
言い訳でしかないのだ
けれど厄介なことに
運命とは気まぐれで必然的で
絶対的で偶然でたまたまだ
希望であり絶望だ、と


「ごめんね、ちょっと話が見えないんだけど…」

酔っ払っているにしては
言葉もはっきりしているし
何より目が真剣だったことに
とてつもない違和感を感じた
嫌な予感がした

「結局、私も忌々しい運命とやらに囚われているのさ。なんて、やっぱりこれも都合のいいただの言い訳なんだけどね」

「姫たん、何言って…」

僕が姫たんの手に触れようと
自分の腕を伸ばしたのと同時に
彼女は立ち上がり
どこに隠し持っていたのか
果物ナイフを取り出した

「けれども運命とやらは行動一つで変えられる」

ナイフを手にした姫たんは
どこか恍惚とした表情で僕を見た

「さあ、運命の歯車とやらを狂わせてみようか!」

彼女はくるりとナイフを回し
逆手に持ち変えたそれを両手で握り
自分の頭上高くに振り上げた
何をするかなんて安易に予想がついた

「っダメだ姫たん!!」

「いや、これも運命か」

そう呟いたのが聴こえたのと同時に
ぎらりと煌めいたナイフは
彼女の左胸に吸い込まれていった


「っ──!!」

物凄い勢いで飛び起きた
ベッドのスプリングが
ぎしぎしと悲鳴をあげている
どうやら僕は夢を見ていたらしい

酷く喉が渇いた

何か飲もうと冷蔵庫を開けたが
そこには何も入っていなかった
丁度切らしていたらしい

僕はラウンジの自動販売機に
飲み物を買いに行こうと部屋を出た

エレベーターに乗り
ラウンジまで降下する
到着の合図と共に開くドア

そして僕は
先程の夢の意味を理解した


僕は百目の先祖返り
人の心や未来が見えたりする


誰もいないと思っていたラウンジには姫たんがいた

机に大量の酒の空き缶を積み上げて


僕は恐くなった


僕の存在に気付いた姫たんは
ゆっくりと視線を移動させ
そのきれいな瞳で僕を捉えて
熱っぽく、言った

「ねぇ残夏、残夏は運命って信じる?」


雨の降る夜だった







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