名目上は(甘)








「トキヤーっ!」

大きな音と共にドアが開いた
同時に滑り込んできた姫を見て、
一ノ瀬トキヤはため息をつき
開いていた本を閉じた

「私の部屋に入るときはノックをして下さいと何度も言っていますよね?」

ジロリ、と視線を送るも
姫は軽く謝るだけで
そんなことよりも、と
興奮気味に話し出した


「トキヤ!ポッキーゲームしよう!」

姫は後ろ手に持っていたであろう
ポッキーをトキヤの前に出し、
バリリとパッケージを開けて
笑って見せる


「…誰と誰がポッキーゲームを?」

「私とトキヤが」

「嫌です」

─他を当たって下さい


一瞬ポカンとしたトキヤだったが
話が分かるなりそう言って
再び本に目を落とし
読書を再開しだしてしまった

それを見た姫は
あからさまにムスッとして
トキヤにくるりと背を向けた

「いいもん別に!他の人としてくるもん!」

じゃあね、と続けて
トキヤの部屋を
出ていこうとした姫だったが
トキヤが姫を呼び止めた


「待って下さい」

「何」

「…それはもっと嫌です」

ぽつりと聞こえた声に
姫がパッと振り返れば
僅かに頬を朱に染めたトキヤが
視線を反らしながら言った

「…一回くらいなら付き合ってあげても良いですよ」



名目上はゲームでも
あなたの唇を他人にやるのは
腹立たしい









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