まだ好きだから (切?/微糖)
※ハヤト≠トキヤ(双子設定)
ハヤト視点
僕は姫ちゃんを見つけた
時刻は夕方
雨の中の公園で傘もささずに
ただそこに呆然と
突っ立っている姫ちゃん
僕はその理由を知っている
姫ちゃんはフラれたんだ
誰に?トキヤに
そういえば、
幼なじみからの恋愛は難しいって
誰かが言ってた気がする
***
僕とトキヤは
一卵性の双子だから
同じ遺伝子を持っている
それでも、それだから
比べられることも多々ある
だけど、姫ちゃんは
それをしなかった
“二人は違うよ”
その言葉が嬉しかった
僕を個体として見てくれたことが
たまらなく嬉しかった
***
僕が姫ちゃんを見つけてから
どれくらい時間が経っただろう
随分長い間
考え事をしていた気がする
いや、短かっただろうか
けれども、雨は一向に止まない
僕はそんな中にたたずむ姫ちゃんに近寄り、傘を傾けた
「…帰ろう、姫ちゃん」
「ハヤト…」
「帰って、二人で話そうよ」
「…うん」
僕は着ていた上着を脱いで
姫ちゃんにそっとかけて
手を引いて歩き出した
長い間雨に打たれていたから
姫ちゃんの手は
冷たいはずなのに
どこか温かかった
僕は歩きながら考える
話すって何を?─わからない
慰めてあげるの?─わからない
好きなんでしょ?─好きだよ
今がチャンスだと囁く僕と
それを否定する僕
わからないことだらけだ
ただ、確実に分かることは
姫ちゃんは
まだトキヤが好きで
僕もまだ姫ちゃんが好き
まだ、好きだから
壊したくない、この関係を
まだ、好きだから
姫ちゃんの前では
優しい僕でいたい
─まだ、好きだから
だから、僕は
まだ、君が好きだと言わない
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