ハジマリの音 (甘)


※姫=Sクラス
 パートナーの選び方=アニメ設定







─ポーン

白い鍵盤を指先で押せば
私以外誰もいない
個人練習室に
澄んだミの音が響く

ピアノの前に置いてある椅子をひき、腰を駆け、鍵盤に両手の指をのせる

しかし、今日は
全くと言っていい程気分が乗らない

─ポーン

だから、ただ意味もなく
ミの音だけを押していた

─ポーン

ずっとミの音だけ

鍵盤にのせていた
左手は太股の上にのり
右手は人差し指だけを残して
他は鍵盤にすら触れていない


─ポーン

ずっとミの音だけ
他の音は何もない

重なる音も、続く音も
何もない


「…今日は弾かないのか?」

いきなり聴こえた
ドアの開く音と人の声
びくり、と肩が跳ねる
視線を入口へ向ける
そこに立っていたのは
青色の髪の男子生徒


「…どちら様?」

見たことのない人だった

「いきなりすまない、Aクラスの聖川真斗だ」

なるほど、道理で知らない訳だ

「何のご用ですか?」全くの初対面なので
多少警戒心を表しながら見つめれば
軽く苦笑される


「いや、今日はあの曲を弾かないのかと思ってな…」

“いつも聴いていたんだ”

続けられた言葉に驚いた
あの曲とは、きっと
いつも弾いている
作りかけの曲のことだろう

何故あの曲を知っているのだろう
ここはきちんとした防音が施されている、なのにどうして?
疑問が沸いた

しかし、すぐに答えは出た
ふわりと頬を撫でる風

あぁ、そうか
いつも窓開けて弾いているからか


「…今日は、気分がのらなくて」

いつも聴かれていたなんて
少々恥ずかしかったが
窓を開けながら弾いていたのは
紛れもなく自分だ
仕方がない


「なら、簡単な曲でいい。何か弾いてはくれないか?」

「え?」

「お前の弾くピアノの音色は綺麗だ。聴かせてほしい。」

綺麗な音色だなんて
言われたことがなかった

「あ、ありがとう…?」

それじゃあ、と
再び鍵盤に両手をのせ
何を弾こうか考える


「それと…」

思考を遮る様に聖川真斗が
遠慮がちに口を開いた

「もしもまだパートナーを考えていなければ…俺のことを考えておいてほしい」


─とくん

心臓が一度、大きく跳ねた


「え…あ、うん」

その言葉に曖昧に返事をして
私は赤くなっているであろう頬を隠すように鍵盤を見つめ
ピアノを弾き始めた



─ハジマリの音

これが恋のハジマリだなんて
思ってもみなかった







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