ぬばたまのゆめ (切)








「好きですよ一さん」

「俺も、お前を好いている」

では、また近々お逢いしましょう


そうして締め括られた
束の間の逢い瀬

こうやって逢い続けられるのは
あと何回だろうか、と
女、姫はぼんやりと考えながら
男、斎藤一の後ろ姿を見送り
宿へと帰っていった


***


ようやく宿へ帰りついたのは
真夜中もいいところだった

番台の横を抜け
誰にも見つからない様に
足早に自室へと向かう


「おい、どこに行ってやがった」

しかし、もう少しで自室
というところで
後ろから声をかけられた

「これはこれは…貴方は宮部殿の側近の…」

「ご託はいい。姫、てめえどこに行ってやがった」


声を掛けて来たのは
姫の師の友人、宮部の側近だった
あまり交流がなかったので
その側近の名は知らない
聞いたことがある気もするが
忘れてしまった

「ただ夜風に当たっていただけですよ」

至って平静を装い微笑んでみせると
宮部の側近は
疑り深い目を向けながらも
あまり出歩くな、と一言だけ釘を刺し
その場を去っていった

「こりゃしばらく一さんに逢うのは無理だな…」

呟いた言葉は誰もいない廊下に
響いて消えた


***


一さんと最後に逢ってから
どのくらい経っただろうか
わからなくなる程長らく
逢っていなかった
否、逢えなかった

「御用改めである!!」

階下から野太い声が上がった
新選組だ

一斉に席を立った者達につられて
姫も慌てて席を立った

「新選組だって!?」

「幕府の犬め!」

立った者達は口々に叫び
刀を鞘から抜き放ち部屋から出ていった


「しんせん…ぐみ……」

口の中で反芻した言葉に
身体をひやりとしたものが駆け抜けた

「一さん…」

姫はただ刀を握り締め
立っていることしか出来なかった


しばらくするといつぞやの宮部の側近が血塗れでやってきた

「てめえだけでも逃げるんだ!早くしろ!」

その言葉で姫は弾かれた様に走り出した
窓から屋根へよじ登り
屋根から屋根へ飛び移り駆ける
敵のいないと思われる場所まで駆けて、地面に降りた

途端に、仲間を置いてきてしまった罪悪と脱け出せた安心感がない交ぜになり
涙となって溢れ出た

そして、姫は数分考えた後に
また走り出した
池田屋へ向けて


***


姫が再び池田屋へと駆け出し
あと僅かというところで
懐かしい声を聞いた

「姫…!?何故こんな所に…」

「一さん…」

久方ぶりに聞いた
想い人の声は困惑に染まり
瞳は大きく揺れていた

「ここは危険だ。今すぐに戻れ」

「知ってます。だから来たんです」


姫は腰に差していた刀を
すらりと抜き、構えた

「私は、池田屋にいる仲間を助けに来たんです。邪魔をするなら…斬ります」

「仲間…?何を言って…っ!?」

がきん、と金属のぶつかり合う音
姫が振りかざした刀を
反射的に刀で受けた男は
未だに状況が出来ていないらしい
姫は声を荒げて告げた

「私は!貴方の敵だと、そう言っているんですっ!」

再び金属のぶつかり合う音
姫が振りかざした刀を
反射的に刀で受けた男は
未だに状況が出来ていないらしい
姫は声を荒げて告げた

「私は!貴方の敵だと、そう言っているんですっ!」

再び金属のぶつかり合う音がして
お互いに距離をとった

二人の間を冷たい風が通り抜けた

「お前は…あの者達の、仲間、なのか…?」

揺れていた男の瞳が
徐々に冷たく細められていく

「そうです。さあ、私も仲間と同じ様に殺してみてください!新選組三番隊隊長斎藤一さん!!」

そう叫び再度斬りかかった
姫の瞳からは
男との思い出が溢れ
雫となって地に落ちた



 生まれた時代が違ったならば
 私は貴方のものになれただろうか
 なんて、夢をみるの







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -