ニヒルの侵蝕 (悲/死/暗)


※双熾=凛々蝶のSS ≠みけちよ
 姫→双熾






ふと目が覚めた

のそりと体を起こし
ここはどこだ、と
辺りをぐるりと見回してみる

答えは直ぐに出た
ここは寝る前にも見た
自分自身の部屋である

普段となんら変わりない自室
しかし、何か違和感がある

そう思った姫ではあるが
寝ぼけた頭で考えがまとまる訳もなく
変わっている方がおかしいか、
と呟きゆっくりと瞬きをした

─何だか嫌な夢を見ていた気がする

チラリと時計を見れば
時刻は真夜中だった


さてもう一眠りしようか、と
再び横になろうとして気付く

章樫館にある妖怪の気配が
足りないことに

あまりにもおかしいことに
寝ぼけていた頭は覚醒し
どうしたものかと
気配を探りながら考える


すると更におかしいことに
気が付いた

章樫館の外からたくさんの
妖怪の気配がするのと同時に
その気配が異様に荒れている
ということ

そして章樫館の中の
足りない気配は残夏以外のSSで
彼等の気配も章樫館の外の
荒れているところからする
ということに

「なに、これ…?」

急に恐くなって
自分の肩を抱き締めた

頭の中で警鐘が鳴る

─いそげ、はやく、たすけにいけ
 はやく、はやく、いますぐに

「っ…」

姫は乱暴に上着を羽織り
震える肩を押さえながら
章樫館を飛び出し
荒れている気配の方へと
走り出した


先祖返りである姫が
真夜中に章樫館を出ることは
かなり危険なことである

普段の姫ならば
章樫館の中にいる唯一のSS
残夏の元へと向かい
現在起きていることを
聴いてから行動しただろう

そうしなかったのは、
できなかったのは
頭で鳴り響く警鐘のせいだ

いそげ、はやく、と
己を急かす警鐘は
荒れている気配へ近付くほど
大きく強くなっていく


ようやく目的地へ着いたとき
目にしたのは宙を舞う、首

ごとり、と音を立てて
地面に落ちた首がこちらを向いた

「そう、し…?」

周りの物は見えなかった
周りの音は聴こえなかった

いつからいたのか
凛々蝶がその落ちた首を
抱き締めて泣いていた


姫は目を見開いたまま
動けなくなった
けれど、不思議なことに
涙は流れなかった

逆に、凛々蝶が首の名前を呼ぶ
悲痛な声が、頬を伝う涙が、
やけにどうでもいいことの様に思えた

姫はどうして自分は
ここまで何も感じないのかと
漠然と考えながら
ただ目の前の光景を眺ていた


そしてふと思った

人は本当の絶望を知った時
悲しみに涙を流す事もなく
己の行いを悔やむ事もない
ただいたずらに時を過ごす
この世に存在するだけの
“無”となるのだ、と


「あぁ…なんだ、死んだのか」

やっと口から出た声は
ただの音だった

その言葉は首に向けてか
はたまた自分自身に向けてか
もうそれすらどうでもよかった







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