せめてもの償いに (切/甘)








月が綺麗な夜だ
あまりにも綺麗だから
普段はそんなに口にしない酒を
姫ちゃんに見つからない様に
こっそりと引っ張り出してきて
縁側に座って
猪口でちびちびと飲む
所謂月見酒だ

昔は、京にいた頃は
こうやってあの騒がしい三人と
酒を酌み交わしたっけ
それで、段々酔いが回ってきたら
左之さんが腹踊りをしだして
皆で笑って、
その度に土方さんに
雷を落とされた
今はどうしているだろうか


「っ沖田さん!」

懐かしい想い出に浸っていて
姫ちゃんの気配に
気付けなかった僕は
真後ろからした
彼女の大きな声で
現実帰ってきた


「どうしたの姫ちゃん?」

月を見ながら問い掛ける
何故大きな声を出されたか
なんてわかっているけど

「どうしたもこうしたもありません!こんな時間に薄着で外に出るなんて…それにお酒まで!!」

やっぱりコレだ
確かに僕は労咳を患っている
だけど彼女は心配し過ぎだと思う


「はいはい、ごめんね?そんなに怒らないでよ。せっかくの可愛い顔が……」

適当に返事をしながら
振り返って絶句した

「…姫ちゃん?」

僕の真後ろに立っている姫ちゃんは
袖口をきつく握り締め
涙を必死に堪えていた

「ちょっと、どうして泣いてるの?」

「泣いてませんっ!」

「いや、だって…」

「泣いてませんっ!」

姫ちゃんの柔らかな頬を
涙が伝って、落ちた


「ほら、泣かないで…?」

立ち上がり、指先で
彼女の涙を拭ってやる

「…沖田さんが」

「僕が、何?」

「いなかったから、何処かに消えてしまったのかと…っ」

はらはらと落ちる涙が
月の光に反射して
とても綺麗だった

「うん。ごめんね」

「すごく、っ心配しました」

「ごめんね」

大丈夫、僕はまだここにいるよ
だから泣かないで…
そう呟いて抱き締める

彼女の涙が薄い寝間着に染みて
ひんやりと冷たかった

「どこにも…どこにも、行かないで下さい…っ」

僕は返事が出来なかった
その代わり、
姫ちゃんの滑らかな黒髪に
小さな接吻を一つ落とした



どうしたって僕は
君を泣かせてしまう
それなら、せめてもの償いに
僕が生きている間
僕の事で泣くときは
僕の腕の中で泣いてくれ







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