雨音で聴こえない(悲/切/死)


※日向視点
 姫=龍也のパートナー
     (専属作曲家)
 BGM⇒「ねぇ。」
    作詞/作曲:ほえほえP






アイドルとしてデビューしてから
何年かが経った
仕事も安定してきたし
かなり軌道に乗っていた

そんなある日
俺のパートナーで作曲家の姫が
深夜、交通事故にあって
─死んだ


「…嘘、だろ?」

朝、事務所の社長室に呼ばれた俺は
社長からその事を聞いた
社長の言っている意味が
分からなかった
分かりたくなかった

「残念だが事実だ。実に残念なことだ…」


目の前が真っ暗になると言うのは
こういうことなのだろうか

「葬儀はうちで執り行うつもりだ、本当に惜しい人材をなくした…」


社長室を出た俺は
携帯電話の留守番電話を聞き直した
着信相手は姫
時間は今日の午前3:00過ぎ
事故にあったのは午前5:00頃
正に最期の言葉というやつだ


機械のアナウンスの後に
姫の声が続いた


『もしもし、龍也?
 こんな時間にごめんね…
 何だかね、急に、
 今龍也に言いたいこと、
 全部言っておかなきゃ
 って思ってさ…
 だから、一気に話すね。
 …龍也は覚えているかな?
 私達が早乙女学園で
 初めて出会った時のこととか、
 パートナーを組んだばっかりの
 時のこととか…
 一緒にくだらない話をしたり、
 勉強したり、喧嘩したり、
 寮まで全力で走ったり…
 毎日すっごく楽しかった。
 私ね、
 龍也がパートナーじゃなかったら
 途中で諦めてたと思うの。
 龍也がいてくれたから
 今の私がいるの。
 何だかね、龍也の歌を聴くと
 それだけで元気をもらえるの!
 今更だけど、いつもありがとう!
 …今もね、龍也がいるから
 どんなに辛くても頑張れるんだ。
 私は龍也に救われてる。
 …って、なんでだろう
 っなんか涙出てきた…
 …あのね、明日になったら
 龍也に会えなくなる様な
 そんな気がしたんだ…
 馬鹿だよねー、
 そんなことあるはずないのにさ…
 私達はパートナーだし、
 一心同体みたいなものだから
 心配することなんか
 なぁんにもないのにね…
 …うん、なんか、
 変なこと言ってごめんね?
 明日も元気にアイドルらしく
 張り切って行きましょう!
 本当に、遅くにごめんね?
 龍也、愛してるぞ!!
 なーんてね、おやすみーっ!』


─ぷつん

再生が終わった



今朝聴いたときは、
正直笑えた
今更“ありがとう”とか
何だか照れ臭かった

しかし、今は違う

きっと姫は何かしら
感じていたのかもしれない
自分が死ぬことを

だから、電話をくれたのだろう

俺がこの電話に出ていたら
運命は変わっていたのだろうか
分からない


外では雨が降りだした様だ
雨が窓ガラスを叩く音が
やけに耳につく


視界が歪む

「何で、何でだよ…っバカ野郎!!」

拳で壁を殴り付けても
全く痛くなかった
拳よりも心が痛かった

「くそっ…何でだよ、何でっ!!」





雨 音 で 、 俺 の 、

俺 達 の 音 楽 が 、

聴 こ え な い



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