弱虫吸血鬼(那,砂/切?/甘?/パロ)


※那月=砂月 吸血鬼パロ
 …with VANPEREより





─コツコツコツ

人気のない路地裏を
ヒールの音を響かせながら
ゆっくりと歩いて
待ち合わせの場所へ向かう姫


─コツコツコツ

─コツコツコツ

姫は背後から忍び寄る足音を感じた
そして立ち止まり、振り返った
しかし、そこには誰もいない

「気のせいか…」


待ち合わせ場所につきそこで待つ

どのくらい待っただろうか
ポケットに入っている
懐中時計に目をやれば
午前三時を少しまわったところ
待ち合わせ時間は午前二時
だが、待ち人は未だに現れない

「遅い…」

懐中時計を握りしめ辺りを見回す
いくら目を凝らしても
待ち人のマントの影はない


「もしかして、何かあったとか…」

心配、不安、負の感情が駆け巡る

その時だった

ばさり、とマントの翻る音
その音の方へ視線をうつせば
そこには待ちに待った人

「砂月…!」

パタパタと駆け寄り抱き締める

抱き締められた黄色く
やわらかな髪をした青年は
苦笑混じりに言った

「すみません、今は那月です」

それでもしっかりと
抱き締め返してくれる


「え?今日は那月なの?」

「さっちゃんに無理言って代わってもらったんです」

姫を抱き締める腕に
僅に力がこもった
そして口元は首筋へ

「…いいですか?」

「もちろん。だってそのために来たんだもの」


唇が首筋に触れる
姫はこれから来るであろう
鈍い痛みを想像し目を閉じた

しかし、少し待っても
その痛みは来なかった

「…那月?」

そっと名前を呼べば
首筋から唇を離し
一歩後ろに下がった那月

様子を伺うように見つめれば
辛そうな顔をしている彼と目があった

「すみません、僕には…俺はっ」


「僕にはできません」
「お前を食べちまいたい」


同時に聴こえてきた言葉
次の瞬間、姫の首筋には
牙が突き立てられていた

「っ…さつ、き?」

返事は、ない
代わりにあるのは
じゅるり、と血を啜る音と
ごくり、と嚥下する音


どのくらいの時間が経っただろうか
やっと姫の首筋から
砂月、もとい那月の唇が離れた


「ったく、那月の野郎、できもしないくせに…」

口元の血を手で拭いながら
発せられた言葉
そこには多少の苛立ちが見えた


一方、大量に血を飲まれた姫は
貧血を起こしてしまいふらりと傾いた

「っ…大丈夫か?」

が、倒れる前に抱き止められる

「ごめんなさい、大丈夫…」

「…悪かったな」

肩を借りて立ち直せば
ポツリと聞こえた謝罪

「いいの、私、役に立ててるならそれだけで十分だから」

血の気の悪い、青白い顔で
必死に笑いかける姫

ぎりり、と歯ぎしりの音がした

「っなんでそんな…いや、いい。何でもない…また来週、頼む」

「うん、わかった」

短く返事をすれば
じゃあな、とマントを翻し
路地の闇に溶けていく砂月


姫は懐中時計に目をやった
時刻は午前五時少し前
空を見上ると、段々と白んできていた

「もう少し、夜が続けばいいのに…」


呟きは路地の闇に紛れて消えた


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