いつものこと(切)


※姫=聖川のパートナー
 聖川視点  聖川→姫→誰か






また姫がどこかへ行った

最近、放課後になるとフラフラと
どこかへ行くことが多くなった気がする
いや、現に多くなっている

しかし姫が行く場所は
毎回決まっている

いつものことだ


─ポーン

誰もいないはずの放課後の音楽室から

─ポーン

ピアノを叩く音がする

─ポーン

しかしそれは曲を奏でる訳でもなく、
ただ同じ音を発しているのみだ

いつものことだ


俺は音楽室の扉を開け中に入る

─ガチャリ

扉の開く音と共に中に入れば
勢いよくこちらを見た姫

「またここにいたのか…」

「…聖川くん」

心なしかがっかりした様な声のトーン
姫の目の前には
真っ白に近い五線譜と
鉛筆が転がっている

いつものことだ


「また曲を考えていたのか?…進んだか?」

((はい…でも、なんだか行き詰まっちゃって…))


いつもなら、
そう返ってくるはずだった


「勿論曲も考えていました、でも…待っていたんです、人を」

“人を待っていた”

─誰を…?


「だけど、やっぱり来ませんでした、待っていても意味はなかったんです…すみません、明日からは、ちゃんと曲作りに専念しますから…」


泣き出してしまいそうな姫の顔

いつもの笑顔とは、ちがう


「…誰を、待っていたんだ?」

いつもならそんなことは聞かない
いつもとは、違う
何かがおかしい


姫は俺の問に答えることはなく
窓から見える夕日に
チラリと目を向けてから
切なそうに、笑った


その切なそうな笑顔が
胸に引っかかった



─こんなキモチはハジメテで
 自分のキモチがわからない
 ただ、一つだけわかるのは
 いつもとは、ちがう
 そんな曖昧な感覚だけだった



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