癒えない傷(切/悲)


※六道骸視点





遠く、地平線で揺れる
夕日と陽炎は
真っ赤な地面に立っている
僕を嘲笑っている様で

姫を失った日と
酷く似ていた


「相変わらずイラつきますね…」

呟きは夕日と供に
空に浮かんで、消えた


辺りは夜の帳に包まれた
しかし、相変わらず地面は真っ赤

何故真っ赤なの?
理由は簡単、
僕がこの手で染めたから


僕と姫は同じだった

出会った所があんな場所でなければ
全てが夢だったら
と、何度思ったことか


─…‥


僕達はあのエストラーネオの
実験室で出会った

暗い実験室にはにつかない
向日葵の様な笑顔だった姫
僕達はすぐに打ち解けた

しかし別れもすぐだった

僕が実験に成功した日は
姫が実験に失敗して
命を落とした日
そして僕がファミリーを潰した日


どんなに殺しても
姫が帰ってくる訳ではない、と
理解はしていたけれど、
わからなかった


─…‥


毎年この日がくると
瞳の奥に焼き付いている
子供の頃に見たっきりの
姫の笑顔が目の前をちらついて
どうしようもなく右目が疼く

そのたびに僕はマフィアを殺す

殺していけばいつかもう一度
姫の笑顔が
見られるのではないか、と


─夢なら早く醒めれば良い

なんて、柄にもなく思う
しかし、これは紛れもない現実で
もう戻ることも
止まることもできない


僕は姫が好きでした、
今もずっと
傷を癒す為に誰かを傷付ける
そんな僕を見たら
姫は何と言うでしょうか…



─癒えない傷、消えない傷、
 君が、いない、深い深い傷痕


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