たからもの(切/甘?)


※ブレイク(ケビン)視点
 姫=シンクレア家のお嬢様








((ねぇケビン、良いものあげる))


目が覚めた
暗くなった室内
カーテンが開いている窓の外には
まるで空に取り残された様に
月が浮かんでいる

ちらりと時計をみると夜更けもいいところ

珍しく机に向かって事務処理を行っていたせいか、作業中に寝てしまった様だった

目の前にある山積みの書類類は
開始からあまり減っていない気がする

それを見て、溜息をひとつ

自分にはデスクワークは向いていない様だと思うと同時に
デスクワークが得意な友人の顔を思い浮かべた

「明日、レイムさんにでも押しつけますかネェ…」

彼に押し付けることにさほど罪悪感を感じないのは
どうせいつものことだし、
と軽く考えているからだろう


少しぼーっとして
先ほど見た懐かしい夢を思い出した

自分が捨てた名で呼ばれていた頃
もう、50年以上も昔の話

眠気が残っている頭でも
鮮明に思い出せるほど覚えている

ワタシが、まだ騎士だった時の話


***

「…姫様、どうかしましたか?」

「あのさ、ケビンっていつも小さい子が怪我したり悲しそうな顔をしている時に、飴玉あげるじゃない?」

「えぇ、確かに渡していますが」

「私の弟や妹だけじゃなくて、町の子にも飴玉あげてるでしょう?」

「…えぇ、まぁ」

「だから、すぐになくなっちゃうでしょう?」

「そうですけど、でも私が好きでしていることなので…」

「だから、そんな優しいケビンには私の宝物あげる」

「……これは…?」

「感謝の気持ちと私の愛情…ってところかしら?それは食べたりできないから当然甘くもないけど、何となくは飴玉に似てるでしょう?これなら誰にも取られないだろうし永遠に残るから」

((いつもありがとう、ケビン))


***


ポケットから取り出した
彼女の宝物だった、今はワタシの宝物を、目の前に持っていく

窓から差し込む僅かな月明かりを集め反射して、キラキラ輝いている

特別な加工など施していない
彼女からもらった
どこにでもある様なただのビー玉は
今でもワタシの手の中に存在している

あの日から何年、何十年経っても
これは永遠に、
姫がワタシと存在していたということを伝えてくれる


((もしも私たちが離れ離れになったとしても、ケビンがこれを持っていてくれる限り私はケビンを忘れないし、ケビンも私を忘れないでしょう?))

彼女の言葉が、声が、香りが、仕草が、表情が、
鮮明にワタシの脳裏に甦る

眩暈がしそうなほど、
ワタシは彼女を想った

想って、続きの言葉を思い出す

((…でもさ、もし万が一、私の方が先にいなくなったら、その時はそのビー玉は捨ててね?まぁ、ケビンに護ってもらうんだし、そんなことはないだろうけど))


眩しいほどの笑顔で
ワタシにそう言ってくれた姫は
もう、どこにもいない


「ワタシはね、今でも貴女との思い出を捨てることができないんデス…約束を破ってしまうけれど…これは捨てられまセン。ごめんなさイ」


誰が聞いている訳でもないが
ただ想いの言葉を静かに落として
宝物を持っている手とは反対の手を乱暴にポケットに突っ込んで
取り出した飴玉を
思いっきり、噛み砕いた



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