君の名前(甘)


※姫視点






パンドラ内を歩いていると
視界に入った見慣れた背中
思い切って声をかける

「ぼーぅしーやさーんっ!」

そう呼びかければ、いつも通り怪訝に振り返る紅い目の彼
不機嫌そうな顔、気に入らないわ


「姫…その呼び方止めてくださいネって、何度も言ってるじゃないですカ」

「いいじゃない別に!ヴィンセントだってバルマ公だって、そう呼んでるじゃないなんで私は駄目なのよ」

ふてくされながら言えば帽子屋さん、もといブレイクは大きな溜め息をついた


どうしてかしら…
そんなにゲンナリしないでよ
私はあなたのあの笑顔が見たいのに…

「…ヴィンセントに帽子屋さんって呼ばれたら笑顔で振り返るくせになんで私は駄目なの…」

「は?」

「だってそうじゃない!なんでよ!」

驚いた様に目を丸くするブレイク
思わず大きな声を出してしまった自分に嫌気がさす


お互いに何も言わない
長い沈黙
目線を下げて手の平をぎゅっと握り締める

流石にこの空気に耐えきれなくなり振り返って逃げようとした
が、腕を捕まれ引っ張られてしまった

「っな…」

背中にかかる重み
混乱する頭でやっとブレイクに抱き締められていると理解する


「っ…離して!仕事があるので帰ります!」

「レイムさんに任せておけば大丈夫デスヨ、それに…随分と可愛らしいことを言ってくれたノデ」

語尾にハートマークがついているのではないかと思うくらいにノリノリで、しかし後半は甘く囁く様に言われた

心拍数が上がる
勿論体温も

あたふたしながら腕から逃れようともがいても、なかなか腕は外れない
逆にどんどん力が強くなっている


「はーなーしーてーっ!!」
「えー、嫌デス」
「っ…ブレイクッ!!」

耐えきれず名前を叫ぶ
“帽子屋さん”ではなく“ブレイク”と

するとブレイクの力は抜けていき私はゆっくりと解放された

暴れる心臓を静め様と深呼吸をしブレイクを睨み付けた


どうしてんな顔するかなぁ…

「やっと名前で呼んでくれましたネ」

そう言ったブレイクはいつもの張り付けた様な笑顔とは違う柔らかな笑顔を浮かべていた

久しぶりに見たその笑顔を見て赤くなったであろう顔を隠すために
今度はこちらから思い切り抱き着いた
最早タックルに近い
それでもしっかりと受け止めてくれるブレイクに頬が緩んだ

「やっぱりブレイクはそういう笑い方のほうがいい」

「ワタシの名前を呼んでくれたら、きっと最高の笑顔を差し上げますヨ」

珍しい
ブレイクにしては甘い台詞
ちょっと悔しい


「わかった、帽子屋さん好きよ」
だから反撃

呆れて一言
「姫…話聞いてましタ?」

「聞いてたよブレイク」

「ならよかっタ」



─君に名前を呼ばれるのが好き
 君の笑顔が好き
 だから、名前を呼ぶよ



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