月夜(シリアス)
※流血あり ケビン/ブレイク視点
月が綺麗な夜だった
はっきりとしない
ぼんやりとした意識の中
紅い飛沫と絶命の音を聞きながら
私は空を見上げた
僅かに浮かぶ雲の隙間が
点々と覗く星の輝きを一層際立たせていて美しかった
まるで異世界にでもいるような心地だった
しかし、目線を下に戻せば
眼前に広がるのは
一面の赤、紅、アカ、あか
赤く染まる自らの手に握られた剣
かつては護るために握っていた剣
─今は?
切っ先からは赤い血が
ぽつりぽつりと滴り落ち
その先には横たわるのは赤い亡骸
最初の頃は心臓が潰れるのではないかという程の苦痛を感じていた
しかし、今は苦痛など どこにもない
なにも感じない
それどころか私は興奮を覚えているのを感じていた
手が疼く
足りない足りない
もっと、もっと
─私は遂に壊れてしまったのだろうか
いや違う
叶えるべき願いは
一秒たりとも忘れたことはない
取り戻す、大丈夫だ
続けていけば、必ず取り戻せる
すべては私の仕えるシンクレア家の為に
今も屋敷で私のことを待っているであろうお嬢様の為に
護りきれなかったマスターの為に
騎士の誇りにかけてやり遂げなければ
そしてまたあの日々を過ごすのだ
記憶の中にある幸せな時間を回想し、私は薄く笑みを浮かべた
身体が重く反応が遅い
頭もぼんやりとしたままだ
一昨日から食事と呼べるものはとっていなかった
空腹はあまり感じなかったから
しかし、私が死んでしまっては願いは叶わないので食事は摂らなければならないな
などと、ぼんやりとした頭でぼんやりと考える
だが、まずは
次の贄の準備を
剣を大きく横に払い
張り付いた血を振り落とす
刀身を目の高さまで持ち上げれば
鈍く月光を反射する
幻想的だと思った
そしてまた私は歩き出した
***
「本当に、今日みたいに月が綺麗な夜でしタ…君も、君は、ワタシみたいになってはいけないヨ…?」
先程貰った違法契約者の資料に目を落とし、眺めてから机に放る
先日家族を失った、まだあどけなさが残る姫という子に
主を失った過去の自分を重ねた
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