いいあい(ほのぼの?/甘)








「ご機嫌うるわしゅう、姫様」

「素晴らしいお召し物でございますわね」


昔からそれなりに
良くしてもらっている
知人のパーティーに呼ばれて
やって来た姫は
内心かなりうんざりしていた

姫は四大公爵家に次ぐ地域を持つ
貴族の一人娘である
パーティーともなれば
彼女の見た目も手伝って
媚びを売ってくる輩が多いのだ

さらに、姫は人付き合い、
もとい、人自体が苦手なため
時間と共に不快感は高まっていった


「だからパーティーは嫌いなのよ…」


***


パーティーも中盤に差し掛かり
ようやく恭しく挨拶をしてくる
煩わしい人間も減った


「…ちょっとくらい、いいわよね」


姫は周りを盗み見て
スルリと会場を抜け庭へ出た

広い屋敷の中を迷うことなく歩き、
ものの数分で目的地へ到着した

それもそのはず、
人自体が苦手なため
“人付き合いがいい”
とは言えない姫だが
この屋敷にだけは
幼い頃からよく
遊びに来ていたのだ

本人曰く、
人が少ない、静か、庭が綺麗、
自分に構わないでくれる、
書物がたくさんある、
と言う、彼女が好むものが
揃っているからだとか


庭へおりて辺りを見渡せば
普段なら色とりどりの花が
咲いているはずの庭は
すっかり雪化粧されていて
一面真っ白だった

はぁ、と息を吐くと
口から白いもやが流れ出る
しかし、それも一瞬で
瞬く間にすぅ、と
空気中に霧散して消える


「…さむい」


手を擦り合わせながら
ぽつり、と一言漏らす姫
その声は本当に
小さいものだったのに
数歩後ろから反応が返ってきた


「薄着で出るからじゃ、戯け者め」


声のする方へ振り返れば
パーティーの主催者
ルーファス・バルマ本人が立っていた

誰もいない静けさを
楽しんでいた姫は
突然の自分以外の人物の登場に
当然不満を感じ、
僅かに眉間に皺を寄せた


「こんなに寒いのに、それをわかっていながら私をティーパーティに誘ったのは、一体どこのどなたかしら?」

「こんなに寒いのに、それをわかっていながら薄着で庭に出る戯け者は、一体どこのどいつかのぅ…?」


厭味に厭味で返され
さらに眉間に皺が寄る


「…なんのご用です?シェリル様の尻に敷かれているルーファスおじ様?」

「何、人付き合いも満足に出来ず一人になりたがる、その癖人一倍寂しがりな汝の様子を見に来たまでよ」


そう言って近付いてきたルーファスを
今度はきつく睨み付けた

その瞬間、何処から出したのか
ふわり、と
肩にブランケットが掛けられた
姫は深く溜め息をついた


「なんじゃ、先程寒いと申したであろ」

「…別に、何でもありませんよ」


姫はふい、と
ルーファスに背を向け
庭を見つめた


「ルーファス様は変わりませんね」

「何をわかりきったことを申しておるのじゃ」


姫とルーファスは
姫が幼い頃からの知り合いだ
しかし、どんなに記憶を溯っても
ルーファスの外見は
全く変わっていない
それはチェインとの契約が
関係している訳なのだが


「そうじゃなくて、中身が、ですよ」

「ほぅ…」


話を続けよ、とばかりに
返された相づち
姫はルーファスに向き直り
渋々口を開いた


「昔もこうやって、ブランケットと厭味を片手に様子を見に来て下さいました」

「ふむ、確かにその様なこともあったの…」


ルーファスは
元々細く切れ長な目をさらに細くし
懐かしむ様な顔で姫を眺めた


「汝は変わったのぅ…」

「そうですか?確かに背丈やら何やらは成長しましたが…」

「それもそうじゃが、昔の汝は我を避けこそおったが、もう少し可愛げがあった。それに人付き合いもそこそこじゃった」


─こいつは厭味しか言えないのか

姫の顔に明らかな苛立ちが見えた


「しかし、まぁ…」


それを知ってか知らずか
ルーファスはくるり、と背を向け


「我になついておる今の汝の方が、我は好きじゃがの」


そう言い放って歩き出した

呆然と立ち尽くす姫
また雪がちらついてきた


「何をしておる、はよう来るのじゃ」


はっとして小走りで
ルーファスの隣まで行き
並んで歩く


「…る、ルーファスおじ様に気に入られるなんて、最悪です!」


厭味を言ったつもりなのに
そうか、と笑われてしまった姫
その頬には僅かに朱が差していた

それに気を良くしたルーファスは、
さらに追い討ちをかけるかの様に
姫の顔を覗き込みながら言った


「近々、我が嫁にもらってやろうか?」

「なっ…!?」

「冗談じゃ」

“たぶん、のぅ?”


その言葉に真っ赤になってしまった
姫の手を掴んで、
颯爽と会場に戻って来たルーファスは
いつになく機嫌がよく、
反対に、姫はいつになく
挙動不審だった



─言い合い、言い愛、いい愛

 素直には言えないの



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