その痛みは(切/狂/死)
※ヴィンセント視点
僕は自分で自分の心臓を
握り潰しているのかもしれない
そう思うくらい、
すっごく痛いんだ
目の前の女の方が
絶対に痛いはずなのに
僕は目の前の女、
姫を組み敷いて
首に手をかけている
見た目通り細いそれは
きっと綿詰めの人形なんかより
ずっと脆い
手にぎゅっと力を込めると
元々白い肌が更に白くなった
姫の白く綺麗な肌に食い込む
僕の爪
そこから骨が軋んでいるのが
伝わってくる
姫の喉が苦しそうに
ひゅう、と鳴った
ほとんど出来ていない呼吸
しかし
僅かな抵抗とばかりに
睨み付けてくる瞳
そこにはいつもの輝きだけでなく
憎悪が見える
頬には涙の跡が一筋
「痛い?苦しい?…これ以上やれば姫は死んでくれるのかな…?」
─君を殺さないとね
僕が死にそうなんだ
痛くて苦しくて
姫の絞り出すような
掠れたか細い声が聴こえた
「あな…た、は…っ…くるっ…て、る…」
「うん、そうかもね」
だって、
姫から伝わってくる痛みが
どんどん増えてくるんだ
姫の傍にいればいるほど
僕はすっごく痛くなるんだ
死にそうなくらい
僕は痛いのは嫌いなんだ
でもね、もう少しで
この痛みは消えると思うんだ
僕が姫を殺すから
姫のせいで痛くなるなら
姫がいなくなれば
痛みなんて消えるでしょう?
痛くなくなるでしょう?
─嗚呼、痛い痛い痛い
僕は痛いのは嫌なんだ
だから姫を殺す
そうでなければ
きっと僕が死んでしまうから
「…だから、ね」
「ぁ…っ」
僕は手に更に力をかける
─痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛いのは嫌い、嫌いなんだ
だから、死んでよ、姫
首を絞め続けること数分、
姫の瞳から光が消えた
これでやっと痛みから解放される
そう思ったのに…
「…あ、れ?おかしいな…いたい」
なんでだろう
なんで君を殺したのに
痛いんだろう…?
なんでさっきよりも
痛いんだろう…?
「痛い、痛い、いたい…いたいよ…」
─その痛みは“愛”
気付けなかった
アイシテル
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