身代わりの愛(切)


※姫視点






“愛してる”って
何十回、何千回、何万回囁かれたって
それを信じられるわけがない
だってそれは私に向かって言っている言葉じゃないんだもの


“愛してる”

それでも、その言葉は蛇のように身体中を舐めまわし、呪詛のように私の内側にゆっくり染み渡っていく
心地好いけれど、
いつまでもこうしてはいられない


「愛してるよ、姫」


あの日から10年もたった
わからないことだらけだった
あの頃とは違う

「…枢、さま」

「なんだい?」

わかったのだ

「それは、愛ではありません」


私がそう告げた瞬間、
彼は不可解そうに眉根を寄せた

端正に整った顔が私ののせいで歪んでいると思うとなんだか気が重い

でもね、だってね
だって、それは違う
違うの、間違ってるの
彼の私への感情は愛ではない
私はそれを知っているのだ


「この気持ちが愛じゃないのなら一体何だっていうの…?」

本当にわからないという
ワインレッドの瞳

「それはただの執着であって私への愛ではありません」

「…どうして?僕は姫を愛してるよ?」

「誰かと姿を重ねるのは、愛ではありません…」

「…っ」

「それは、姿を重ねている方への想いであって私へのものではありません。叶うことがないから他のもの、私へ映しているだけ…だから、私への感情は愛ではなくただの執着なのです」


あれ?おかしいな
なんだか心臓が痛い



─少なくとも
 私はあなたを見ていたよ
 だけどあなたは
 私を通して
 他の誰かを見ているの



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