耳の切れたウサギ(切?)








「残夏ー、入るよー」

引き戸式のドアをガラリと開けて
柔らかな白で統一された室内に入れば
起きて読書をしていた残夏が
私に手を振った


「いらっしゃい姫たん」

「起きてて大丈夫なの?」

「んー?今日はね調子いいからねー」

「だからって調子に乗ってるとまたぶっ倒れて入院長引くよ?」

「もー…姫たんってば心配性なんだからぁ」


今、残夏は入院している

数ヶ月前ラウンジで
皆といつもの様に談笑していたとき
急にフラリと倒れてしまって
それからずっと入院しているのだ


「今日ね、林檎もらったの。切ってあげるね」

「ウサギにしてね〜」

「ガキか」


私は持ってきていた紙袋から
林檎と果物ナイフと
小さなまな板を取り出して
シャリシャリと音をたてながら
注文通りウサギを作ってやる


「ねぇ姫たん」

「んー?」


生返事で返してしまったが
刃物を扱っているのだから
仕方ないだろう
危ないからあまり話しかけないでほしい


「…来世では一緒になろうね」

私は思わず
数匹目の林檎のウサギの耳を
ジャリ、と切り落としてしまった


「アハハ、何それ…来世では、って…それじゃあ現世では一緒になれないみたいじゃん」

冗談はいらないってば
そう言おうと残夏を見たら
残夏は冗談を言う様な顔をしていなかった
どこまでも切ない顔だった

私は押し黙った


「…ごめんね」

「……ねぇ、どうしてそんなこと言うの?」

「ごめん」

「…どうして謝るの?」

「ごめんね、姫たん」


ただ謝り続ける残夏には
きっともう時間がないのだろう

私は切れてしまったウサギの耳を
何とか作り直そうとしたが
やっぱりどうにもならなかった

私の目からホロリと零れた涙が
耳の切れたウサギに落ちた




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