まほう(甘?)
人混みの中はちょっと苦手
見たくないものまで見えてしまって
精神的にも肉体的にも疲れるから
だから、人混みの中はちょっと苦手
だけど、姫たんとこうやって
普通の人間みたいに
二人で出掛けるのは好き
章樫館から出て、
ただ街の中をブラブラする
そういった時間が好き
でも、好きだから耐えられる
なんてことはなくて、
身体はやっぱり悲鳴を上げる
人混みの中、
ふらりと倒れそうになって
寸前のところで
何とか踏み留まった
「大丈夫?」
姫たんも僕を支えてくれたみたいだ
「んー、何とか」
ありがとう、と笑って言って
また歩き出そうとした僕を
姫たんが呼び止めた
「残夏」
「な〜に?」
「目、閉じてていいよ」
「…それじゃ僕、歩けないよ?」
─姫たんは可笑しなことを言うんだね
ケラケラと笑う僕とは対称的に
姫たんは凄く真面目な顔をしていた
「大丈夫。私が手、引いてあげるから」
僕の手に触れた
僕よりも小さな手
「見たくないものは見なくていいから」
それは魔法の様だった
僕は彼女の言葉を合図に
そっと目を閉じ身を任せた
手に感じる温もりと
視界に広がる黒が心地好かった
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