白い絵の具(切?/シリアス?)








「姫たんは相変わらず絵が上手だね」


いきなり私の部屋に現れた残夏は
ポツリと呟いた

勝手に上がり込んでくるのは
いつものことだから特に気にせず、
そんなことないよ、と短く返した


「ううん、上手だよ」

「…ありがと」


私は趣味で油絵を描いている
描くものは花や風景が多い

パレットに絵の具を出して
筆やペインティングナイフで
それを重ねて塗っていく

今は花を、真っ白なユリを描いているところだ

しかし、完成にはまだ少し遠い

白く塗っている部分の下には
下塗りで塗った青や水色の絵の具が
チラリと覗いている

私は黙々とキャンバスに白を塗る

そんな様子を残夏は
ただ黙って眺めていた


「ねえ、姫たん」


黙っていた残夏が口を開いた
珍しいこともある、と思った

残夏は私が絵を描いているときは
あまり話し掛けてこないのだ


「なに?」


私は筆を止めて残夏に視線をやった


「いつか、もしも僕が死んだらさ、骨を粉にして絵の具に混ぜて、それで絵を描いてくれない?」

「……気が向いたらね」

「ありがと姫たん」


私が話は終わりかと問えば
終わりだよ邪魔してごめんね
と返ってきた

私は再びキャンバスに向き直り
白い絵の具を塗り始めた


こいつが死んだときは
どんな絵を描いてやろうか
今の残夏の表情みたいな
儚く、それでいて美しい
一輪の白菊でも描いてやろうか


キャンバスと筆が擦れる音が
いつになく耳障りで
どうしたものかと手元を見れば
白い絵の具にザラザラとした
絵の具ではない粉が
混ざっている気がした



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