あるきだす(切?/無糖)


※双熾≠凛々蝶のSS
 姫→←双熾 姫視点






((姫さん))

そう呼び掛けてくれる彼は
もう、いない

双熾さんが亡くなってから
何年が過ぎただろうか

双熾さんがいなくなった世界
それでも私は今、ここにいる


はじめは、辛くて辛くて辛くて
息をすることさえ辛かった
このまま窒息してしまうのではないか
そう思うくらいに


それでも私が今、ここにいるのは
仲間の存在があったからだろう


反ノ塚はことある度に
お菓子を届けてくれたし
野ばらさんは抱き締めてくれた
渡狸はあまり話さなかったけれど、
かわりに手紙をくれたし
残夏は話を聴いてくれた
青鬼院は…
全く意味がわからないお土産をくれた

ほんの些細なことかもしれない
それでも、皆の笑顔は私に力をくれた

双熾さんのいなくなった世界で
生きていく力をくれた


悲しくない、と言ったら嘘になる
いくらかは薄れたとはいえ
まだまだ、悲しみは残っている


双熾さんは私の全てだった

あの優しげな眼差し
柔らかな声
暖かな笑顔

何もかもが愛しかった
いいや、今も愛しい


時間とは優しくて残酷だ

時間が経つにつれ
悲しみを受け入れられる様になる
その反面
双熾さんを忘れていく

声も、温度も、
今、この瞬間にも
確実に薄れていっている


全てが懐かしくなっていく
そんな中ででも
決して、薄れていくことはないだろう

あなたの笑顔と、
私のこの想いだけは


「双熾さん、大好きです」

ひとり、そっと呟けば

((私もです、姫さん))

どこからか彼の声が
聴こえた気がした

そうして私は目を閉じて
また彼のいない次の朝を迎える


懐かしさを胸にしまって
私は、歩き出す



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