君に好きと言う前に(切)








「今、何て…?」

喉が渇いているのだろうか
そう思うくらい
姫ちゃんの口から出た声は
酷く掠れていた

「だから、君は土方さん達と一緒に北に行くんだよ。何度も言わせないでくれるかな?」


もうじき土方さん達は
京を出て北へ向かう
この前土方さんに聞いたから
間違いはない
僕もついて行きたかったけど
断られてしまった

それもそのはず
この病が巣喰らう身体では
以前の様に働くどころか
足手まといにしかならない

そこで僕は
僕が行けない代わりに
姫ちゃんを連れて行ってほしい
そうお願いしたんだ

土方さんはびっくりしていたけど
黙ってうなずいてくれた


「で、でも!沖田さんのお世話は…っ」

「いらないよ。松本先生も来てくれるし…だから、君はさっさと荷物をまとめて屯所に行くんだ」

「だけどっ!」

「僕の言ってること、分かるよね?斬られたくなかったら早く行って」


脇に置いてある刀に手を伸ばして
鯉口を斬る

本当はその動作すら
細くなった腕には辛く、
億劫だったけど
本当に姫ちゃんを斬るなんて
僕にはできないけど

身体と心に鞭を打って
精一杯睨みをきかせて
姫ちゃん見据えれば
彼女はハラハラと涙を流しながら
部屋を出ていった


しん、と静まり返る部屋

僕は刀を出来る限りきつく握った
昔ならもう少し強く握れたのに
そう思うと、とても悲しかった


バタバタと廊下を走る音がして
それから泣きながら
“沖田さんなんか大嫌い”と
叫ぶ声が聴こえた
そうして最後に
玄関の戸がピシャリと閉まる音がした


「行っちゃった…」

呟いた言葉は
白い布団に吸い込まれた

本当は
ずっと傍にいてほしかった
もっと傍にいたかった
だけど、これ以上
傍にはいられなかった
傍にいきたくなかった

矛盾の末、出した結論がコレ

本当は僕が出ていけばいいのだけど
生憎、僕はここから出られない
だから、姫ちゃんを遠ざけるには
彼女を追い出すしかなかった


「ばいばい、姫ちゃん…」


さよならをしようか、
君に好きと言う前に


「これでいいんだ…っ!?」

ゲホゲホと噎せかえる肺
咄嗟に口元に手をあてれば
掌には血が滲んでいた

あぁ、本当のサヨナラはもうすぐだ


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