灰の丘(切)








「なんで…」

灰になって、散った
目の前で、この腕の中で


一は羅刹だった
だから、いつかはこうなると
わかっていた

わかっていたけれど
認めたくなかった
いつかは灰になるだなんて
認めたくなかった


急に軽くなった腕は
カタカタと震えている
頬を冷たいものが伝った


抱き締めた感覚も
僅かに香る甘い匂いも
確かな鼓動も
全てがあまりに鮮明で、
最期に見た一の笑顔は
忘れようにも忘れられない

しかし今この瞬間にも
思い出は薄れていき、
彼の温もりも、何もかも
思い出せなくなっていく

時とは無情だ


「どうして…っ」

最期の口付けの甘さも
鼓膜を振るわせた声も
真っ直ぐな瞳も
この腕の中にあった
確かにあったのに

全ては儚く、春の夜の夢の様に
淡く霞んで、灰になり
ただ手のひらをすり抜けていった


「おいて、行かないって…言ったのに……っ」

灰をかき集めて
必死に抱き締めてみても
そこに温もりはなく
灰はサラサラと零れ落ちるばかりだ


どのくらい
灰を抱き締めていただろうか
もう腕の中には何もない

ふと視線を動かして
座り込んでいる床の上の
灰の丘を見てみれば
一が身に付けていた着物と
侍の魂とも言える刀だけが
鮮やかな色を放っていた



灰の丘に咲く花



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