今生の暇乞い(悲/切/死)


※斎藤視点→姫視点






目の前が霞んでいる

─あぁ、そうか 俺は死ぬのか

たしか長州の鉄砲隊に
撃たれた様な気がするが…
覚えていない
不思議と痛みもない

俺は手を伸ばした
どこまでも遠く蒼い空に
そんな蒼とは対照的に
伸ばした手は紅に染まっていた
俺自身の紅と
今まで斬ってきた人間の紅とが
重なって見える


…俺は武士としての志を貫けただろうか

答えは出ない
それでも俺は知りたかった
誰かに俺は間違っていないのだと
告げてほしかった

しかし、今となっては
それすら叶わない
俺は独り、ここで死ぬ

恐怖はない
空へと伸ばした手を
空を掴むかの様に動かす
届くはずなどないのに


目を閉じ手の力を抜き
下ろそうとした瞬間
暖かいモノが手を包み込んだ

もう一度目を開けば
ここには居るはずのない人が、
姫がいた


『斎藤さん……』


柔らかな表情で俺の手を
優しく握り呼び掛けてくる

聞きたいことはたくさんあった
何故ここにいる
怪我はしていないか
土方副長達は無事に進めたか


「姫…」


霞む視界と思考で
必死に考え出てきた言葉


「…俺は、武士として…死ぬ、ことが…できている、か……」

お前から答えを告げてほしかった
俺はじっと答えを待った


『…はい。斎藤さんは誰よりもずっとずっと立派な武士です』

静かに、しかし力強く発せられた答え


「そうか…」


俺は武士でいられたのか
軽く笑って見せれば姫も笑ってくれた


急に視界が暗くなってきた
そろそろ限界らしい
だが、その前に俺は姫に
伝えなければならないことがあった


「…姫、」

『どうしました?斎藤さん』


姫は俺の口元に耳を近づけた


もし来世があるならば、来世は必ず迎えに行く


そして俺の言葉を聞くと
姫はふわりと笑った


そこで視界が完全に闇に覆われた
姫に握られていたはずの手も
感覚を失った


ちゃんと伝わっただろうか…



きっと伝わっただろう…




俺は    





全ての身体機能を止めた斎藤さんは
驚くほど穏やかな顔をしていた
本当に眠っているみたいに…

最期の言葉を聞いたとき
私は笑えていただろうか
泣いてはいなかっただろうか

眠ってしまった斎藤さんに告げる


『必ず来てくださいね。お待ちしております。でも、独りは寂しいです、だから……怒るかもしれませんけけど…私も一緒に…』


私は斎藤さんの刀を手に取り目を閉じた



─ ほんの一時の別れすら
  耐えられないのです



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -