忘れたくない(切?/甘?)
鳥が鳴き朝日が入ってくる
─あぁ もう朝か
女は布団から起き いつもの様に隣を見る
何もないただの冷たい布団
その場所をそっと撫で目を瞑る
藍染,東仙,市丸 が離反してからどのくらい経っただろうか
いや、実際にはまだそんなに時間は経っていないのかもしれない
女─姫は、
離反し虚圏へ消えた思い人─市丸ギンの姿を思い浮かべていた
─やっぱり、もうなんとなくしか思い出せないや
今まで幾千、幾万の夜をともに過ごしたこの部屋の中
確かにここに彼はいたと感じる
とても薄れてしまったけれど…─
姫は布団から出て仕度を始めた
着なれた死覇装に袖を通し帯を締める
─昔はよく邪魔されたっけ
何をしていても思い出すのは彼のこと
しかし 確実に薄れていっている彼の存在
((姫、もしボクがおらん様になったら そん時は、ボクのことは忘れたってや))
随分昔に言われたはずの言葉
その声は朧気にしか思い出せない
─あんなに傍にいたのにね
誰よりも彼を思っていたはずなのに
と自嘲が零れる
─忘れたくない 忘れたくない
忘れなきゃ 忘れなきゃ 忘れなきゃ 忘れなきゃ
心で響く声
─忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ忘れなきゃ
***
鳥が鳴き朝日が入ってくる
─あぁ 朝か
夢の中で聴いた
何故か懐かしいと感じる“音”
『いなくなったら忘れてくれ…』
ふと漏らした吐息に乗せた言葉
『……なんだっけなぁ』
目を瞑っても 何も思い出せない
『何か忘れてるってのはわかるんだけどなぁ…』
((姫、もしもボクがおらん様になったら そん時は、ボクのことは忘れたってや))
((ギンったら何言ってんの?忘れたくないし忘れられないよ))
((おおきに。せやけど忘れたら 何や忘れとるな、てのはわかるやろ?それでええねん。そうやって覚えとってくれれば、それでええねん。))
忘れたくない
(忘れてほしくない)
だから忘れるのです
(だから忘れてほしいのです)
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