夜空と月(切?)
市丸が虚圏に来てから
ずいぶんと経った
着るものも、立場も、生活環境も
何もかもが変わった
そんな中、唯一
変わらないものをあげるとすれば
彼の中の想いだけだろう
「なぁなぁ、博愛主義の東仙はん」
真っ白な椅子に腰かけていた市丸は、近くにいた東仙に話しかけた
「平和主義だ」
「えぇやん細かいことは」
「…何だ?」
「なして人は人を好きになるんやと思う?」
“どうして人を好きになるのか”
「何故、そのようなことを聞く」
東仙は全く表情を変えずに
問い返した
「質問しとるのは僕なんに、なして質問し返すんやろか…」
「あの女が気になるのか?」
「東仙はん…それ言うてまうん?」
市丸は珍しく困った様に笑った
「市丸、人を好きになることは悪いことではない。だが我々には我々の目的が…「はいはい、わかっとるっよって。ほな、僕ちょこっと散歩してきますわ」
東仙の言葉を最後まで聞くことなく無理矢理話を打ち切り
部屋を出た
あのままあそこにいては東仙のお説教を受けてしまうところだった
窓から外を見た
誰もいない、真っ白な世界
夜空には月だけが浮かんでいて
殺風景な世界を照らしている
空、と言えるかは微妙だが
確かにそこに月はがあり
世界を照らしているのだ
まるで自分の縮図の様だと
市丸は笑った
自分がこの世界なら
世界を照らしている月は
魂尸界に置いてきた市丸の想い人
姫といったところだろう
「なして君を好きになってしもたんやろなぁ…」
呟いた言葉に答えは返って来ないが
市丸自身、気づいていた
どうして人を好きになるのか
彼女と離れてその答えを知る
夜空に月があるように
月が世界を照らすように
「…僕が姫を愛したんも必然やったんやね」
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