たまには本末転倒も悪くない
会社に勤めて早数年もうすぐ三十路。
そろそろ健康を気にする年頃になってきた。
見た目には気にならないが、普段の自分の食生活を振り返るといつ死んでもおかしくないと思ったのだ。
常日頃、マヨネーズが食べられないくらいなら死んだほうがマシだと思っているが、実際にマヨネーズの摂りすぎで死ぬとか笑えない。
というか、家族に申し訳ない。
そんなわけで、仕事が終わってから家の近所の大きな公園をランニングすることに決めた。
始めは面倒くさく感じていたが、続けていくうちにハマってきて毎日走るようになってきた。
公園には同じように運動で来ている人や遊んでいる子供たち、ペットの散歩に来ている人やらで賑わっていて、毎日通うと顔もだいたい覚えてきた。
ある日、明らかに誰か入ってるだろ!と突っ込まずにはいられないほど馬鹿デカい犬がいた。
こんなの連れてんのだれだ?と気になって飼い主のほうを見ると、その犬と同じように白くてふわふわの髪した男だった。
あまりにも見つめすぎていたせいか、飼い主が目線に気がついてこっちを見てきた。
すると目を見開いたと思いきや、たれ目を細くして会釈してきて、反射的に会釈を返したが、その笑顔に完全に心を奪われた・・・
何か話しかけなくては!と焦るが、緊張して上手く言葉が出てこず、飼い主はさっさと通りすぎてしまった。
自分でも何であんなに緊張してしまったかわからない。
そこそこいい会社の営業成績No.1のこの俺が緊張でしゃべれないなんてあり得なかった。
だがそれよりも、あの男の名前さえ聞けなかったことの方が悔やまれて落ち込んでいる自分が信じられなかった。
それからも残業がない限り毎日公園に通った。
走りながらも目線はあのテンパ男を探していて、この前会った時間に来れば見つかるだろうと軽く考えていたが、どうやらあの日はたまたまだったらしい。
何時に来ているのかもわからず、俺は外回りの時にちらっと公園に寄るか、仕事が終わってからしか来ることができないので、2週間経ってもまだ会う事ができなかった。
だんだんと、この公園さえたまたまだったのかも知れないと感じはじめていた。
ただあんな馬鹿デカイ犬を飼っているやつはそういないはず、ペットショップとかで聞いたらもしかしてわかるかも…
とそこまで考えてふと我に返ると自己嫌悪で頭痛がしてきた。
何で俺はたった一度すれ違った程度の男にこんなに執着しているんだと。
そんなことを考えながら走っていると、あっという間に日が暮れて真っ暗になり、公園の街灯だけが明るく光っている。
いつもなんだかんだと10時くらいまでいるのだが、明日は違う公園にでも行ってみるかとベンチで休んでいたその時だった。
街灯の光ではないキラキラと輝くものが目に入り、それは動く度にふわふわと揺れていた。
あ、アイツだ・・・
結構離れているが、絶対間違いない。
探していたものの、突然の登場に気が動転してベンチからハデに落ちてしまった。
「あはははは!な〜にやってんの?」
むっとしつつ、笑い声のする方を見上げると、なんとアイツだった。
あっちから話しかけられたことに舞い上がり、自分が今どんな格好をしているかを忘れていた。
すると、
「うひひひ、手ぇ貸してやろうか?せっかくのイケメンが台無しだぜ!」
「!!!」
イ、イケメンって言われたァァァァァ…
「オイオイ、瞳孔開いちゃってるけど大丈夫なの?」
「わりぃ、ちょっと驚いちまって…」
「ベンチから落ちるほど何に驚いたんだよ、イケメンくん」
「土方。イケメンくんじゃなくて土方十四郎だ。」
「なに?いきなり」
「あんた俺に見覚えないか?俺はずっと探してた。また会えないかとあの日から毎日通っ…『知ってる。』
「えっ?!今なんて」
「知ってるって言ったの!……知ってたけど、いっつもキョロキョロしてるから女でも探してんじゃないかって。だから声掛けづらくてさ」
「……」
「あれ、おかしいな…何で声掛けづらかったんだろ?ていうか、オレ何で話しかけてんだっけ」
「俺は…また会いたかったし、話したかった!たった一度すれ違っただけなのにおかしいよな。俺もどうしてこんなに会いたいと思うのかわからなかったが、漸く理由が分かったよ、どうやら一目惚れだったみたいだ」
「うそ…」
「そこはキモいって言うところだろ?」
「いや」
「すまねぇ。男に告白されるなんて嫌だよな…」
「いや、そういう嫌じゃなくて嫌じゃないってこと!」
「おい、何回嫌っていう ん だ…よ…ん?嫌じゃない?!」
「だーかーらー 何ていうかうれしい?かも」
「マジでか!!!!」
「だからとりあえず甘いものでも食べながら話そうぜ♪」
この後ファミレスのデザート全品を献上した俺の未来は明るいはずだ!
おわれ
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