もう少し、あと少し (1/2)
手を伸ばせば、届く距離にいた。
勇気を出せば、応えてくれただろう。
ただ……。
俺に……。
全てに…。
足りなかっただけ……。
【もう少し あと少し】
寒い北風がまだ固く閉ざしている桜の蕾を容赦なく叩きつける。
春とは名ばかりの3月中旬。
あの頃とは少し変わったように思える街に足を付けた。
降りたバス停前の桜の木。
こんな感じだったけ?
もっと……こう……枝が張っていて……。
もぅちょっと……背が高い気がする……。
生まれて18年育ってきた街に、久しびりに戻ってきた。
もっと……あの頃は……。
見ていた風景が輝いていたように…思う。
なんて、大きな桜の木を見上げながら、風の所為で頬に張り付く髪をよけた。
あれから…。
7年………。
街を出て、無心に勉強し大学を卒業、無我夢中で昨日まで働いてきた。
だけど……。
それは……。
アイツを早く忘れたい一心でやった事…。
アイツの存在を、己の中から消し去りたいだけであって……。
結局消し去れずに忘れてしまう事なんて出来ずに、此処にこうしている訳で……。
はぁ……俺……7年も何やってたんだか…。
8年前……夏。
「俺と付き合え……銀時……。」
「はいィィィ?」
幼稚園から高校まで同じで、思考が似ているコイツとは付かず離れず……。
そこそこ仲良くて、そこそこ一緒に居て…。
高校に行くようになってからは、それぞれ違うダチとつるむようになって……。
少し寂しいな……なんて思うようになって。
でもそれにも慣れていき……。
別々にいるのが当たり前になっていたのに…。
「小さい時からずっとお前が好きだった……。だから俺と付き合え。」
「え?いや、は?ええ?」
男に…しかも幼馴染みに告られてるってのに…。
驚く事に嫌悪感は一切なくて。
驚くどころか、なんだかドキドキして嬉しくて。
「なんとか…言えよ…銀時…。」
「あ……うん……いいよ……。」
「え?は?おわっ?」
告られて初めて知った自分の気持ち…。
そっかぁ。
一緒に居れず寂しかったり、今ドキドキしてるのって……俺好きなんだ……コイツの事。
コイツ……土方十四郎の事……。
それからは今まで離れていた事を埋めるように、互いのダチから離れ一緒にいるようになった。
だけど告られて自覚した自分の気持ちと、一緒に居ることに心が付いていかず。
「ななな何?、すすすすんの?」
「キス……。」
「むむむ無理ィィィ!!」
なんて事は付き合いだすとぶち当たる壁であって……。
男同士だからとか…嫌だとかそんなんじゃなくて…。
そう言う雰囲気になるのが気恥かしくて…。
バクバクする心臓が怖くて、痛くて、堪らなくて。
二人きりになっても、なるべくそういう雰囲気にはならないようにしたり、なるべく触れ合わないように……なんて……。
そんな俺の行動が……。
結果的に土方を傷付け続けていた。
そして……街がクリスマスに彩られ始めたころ……。
受験生の俺たちには関係ないとは言いながらも、俺は短期のバイトをして……土方にクリスマスプレセントを買った。
お揃いのストラップ……。
でも渡せる日は来なかった。
雪の降る2学期終了日。
「今……なんて?」
「もう俺たち終わりにしよう……。」
「え……。」
「終わりってか、俺の想いにお前を付き合わせていただけだしな……今まで悪かったな……。」
土方の酷く傷付いた横顔…。
土方の去ろうとする後ろ姿。
掴んだ土方の腕。
「ちがっ、俺は……。」
「もう…いいよ……今更……。」
「よくねぇy……。」
「もういいって言ってんだろっ!!俺の事……好きだっていった事もねェくせに……。」
「っ……。」
「今までありがとな……。」
それから俺は土方と同じ地元の大学を志望していたのに、急遽地方大学を受験し、合格……土方の姿から、影から逃げるようにこの街を去った。
忘れたくて…。
それからひたすら仕事だって頑張った。
それが一週間前……突然の辞令……。
部屋の片づけ・整理……。
ふと、押し入れから開けていない段ボールが出てきた。
なんとなく開けてみると…見たくもないものが出てきた。
それは……8年前渡すことさえ叶わなかった土方へのクリスマスプレゼント……。
綺麗にラッピングされた箱を開けると、お揃いのストラップが…あの頃の…忘れていたはずの土方への想いを思い出させた。
思い出すともう止まらなかった。
逢いたい……。
お前に……。
眠れずに朝を迎えストラップを片手に……土方と育った街へ向かい飛び出していた。
-47-
[back]*[
next
]
bookmark
BACK
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -