「なー、それってうめーの?」
「ん?あぁ、旨いな」
ぷかり
煙を吐く
「お前こそ旨いのかソレ?」
「旨くねーなら食ってねーよ」
ちゅぷん
棒付きのキャンディーが口から出た
「味見、してみる?」
俺の…いや、
俺たちのバランスはその日崩れた
サラウンド
だらだらと大した目的もなく過ごす毎日
今日は何やったっけ?と本気で思う日も少なくはなかった
ただ俺の隣にいつもいるコイツとバカみたいに笑ってバカみたいなことでケンカして
それで満足しようとしていたんだ
“気付けば”と言う表現がいちばんしっくり来る
とにかく、気付けば同じ学校の同じクラスのアイツが好きだった
この感情に最初は戸惑ったりもした
当たり前だ
うちの学校は男子校
好きだと想いを寄せた相手ももちろん男なのだ
それもただの友人としての好意ではなく、いわゆるそういう行為をしたい好意を俺は抱いていた
俺は今その男を探して立ち入り禁止の屋上を目指して階段を上っている
ここの鍵は閉まっていると殆どの教師と生徒が思っているが、実際の所この鍵は壊れていて出入り自由なのだ
そしてアイツもその事を知っている
「銀時、」
「んあー。ひじかた」
「土方じゃねーよ。お前またサボリか?」
「眠たかったんだよ」
「ここで寝るのも教室で寝るのも同じだろ」
「だってあのせんせー俺嫌いだもん」
「好き嫌いの問題かよ」
「そーゆーもんだよ」
日陰になる場所で壁に寄りかかって居眠りをしていた銀時
ふぁ、とあくびをしてヘラリと笑った
「お前な、俺のツレが先生に目ェ付けられるとかありえねーだろ?俺の立場解ってんのか」
「うひひ。風紀委員会の“鬼の副長”さん?」
「副委員長だ」
「同じ苗字だもんなー」
「別に子孫でもなんでもねーし。ってか話すり替えんな」
「あ。バレた?」
「バレたじゃねーよ」
大袈裟にため息を吐いて銀時の隣に座る
「あれ、教室に戻るんじゃねーの?休み時間終わるぜ?」
「…次の先生、嫌いなんだよ」
「好き嫌いの問題?」
「うるせー」
制服の内ポケットからタバコを出し口に咥えた
「ははっ。まさか鬼の副長が喫煙者とかな」
「お前しか知らねーことだよ」
「いやーん。2人だけのヒ・ミ・ツ」
「ばーか」
笑う銀時の髪が視界の端で揺れる
俺の喫煙が2人のヒミツなら俺のこの想いは俺だけのヒミツか…
気持ちをぶつけて今の関係を壊すより、こうやって一番近い場所にいられる事を俺は選ぶ
今のバランスを壊す勇気はない
「なーんか面白いことねーかなー」
ガサガサと音をたて棒付きのキャンディーの包みを開け口に入れる銀時
ぷっくり膨れた頬が小動物みたいで可愛い
「ねーなー」
吸い殻を携帯灰皿に入れ新しいタバコに火を点ける
「土方、女作らねーの?」
「興味ねー」
「他校生からモテモテのクセに」
「知らねーな」
「はいはい。モテ男の余裕だなコノヤロー」
「お前とバカやってるほうがよっぽど楽しいだろ」
「ふーん」
喋る為に出ていたキャンディーがまた口の中に入る
「お前は…女作らねーのかよ」
「んー?俺も土方と遊んでるのがいい」
「ふーん」
あ、キャンディー咥えたままでもちゃんと喋った
器用だな
「一緒だよ」
「一緒…なのか?」
「一緒じゃね?」
「一緒、だといいな」
肺いっぱいに煙を吸いふーっと吐き出す
「なー、それってうめーの?」
「ん?あぁ、旨いな」
また煙を吐きながら答える
「お前こそ旨いのかソレ?」
「旨くねーなら食ってねーよ」
キャンディーを口から出し笑う銀時
「味見、してみる?」
「いいよ。甘そうだし」
「飴じゃなくて、」
「えっ?」
目の前が暗くなり視界には銀色の髪と白い肌
唇に柔らかい感触
あぁ
キスされたのか
「どう?」
「これじゃ分かんねーな」
少しだけ離れた銀時の後頭部に手を回し引き寄せる
触れた唇を割り開き、歯列をなぞり舌を絡める
口の中に広がる甘い味
俺のタバコの味と混ざり合う
「やっぱり、甘いな」
「お前は苦い」
「嫌か?」
「ヤじゃない、かも」
「俺もだ」
「やっぱり一緒じゃん」
「一緒だったな」
身体半分、俺に乗った状態の銀時を膝の間に収め抱き締める
崩れたバランスは倒れるのではなく、片方に寄り重なったようだ
fin
-3-
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