mellow 1/2
――付き合う条件?そうだな…。顔はいいに越したことはねぇな。あと腕にすっぽり入るくらい細身で、それから料理上手で、人に気が遣えるやつで、それから―――
学生時代、土方は酒の席で長々とそう語っていた。酒に弱いから、酔って言った言葉は本音に近かったと思う。
それを聞いてショックだった。
顔はまぁ、いい方だと思う。てか普通?それに料理できるし、土方も旨いって言ってくれた。
だけど土方と同じ身長で、何より男だから細くないし。自他共に認めるマイペースだから、人に気を遣うなんて面倒でしたことない。
だから土方の理想には程遠くて、男であることを恨んだ。
あれから数年。
俺は今でも土方に恋をしていた。
「ハーイ、もしもしー?」
『俺だけど』
「……どこの俺様ですかー?」
『今日明日仕事休みなんだろ?これからお前ん家行くから夕飯用意しといてくれ。じゃ』
「ちょ、土方?…切れてるし」
こちらの話を一切聞かずに電話が切られる。
土方はいつもこうだ。
何かと理由をつけては俺の家にやって来て飯を食って酒を飲んで、朝になると雑魚寝してたはずが、何故か2人仲良くベッドに寝ていたり……本当に心臓に悪い。
「邪魔するぞ」
「お前さ、毎回言ってるけどいきなり来るのやめてくんない?銀さん困るんだけど」
「ああ、悪ぃ。ほら、ウチの店のイチゴタルト」
「しょうがねぇな!今日はつまみも作ってやるよ!」
お互いに就職してからも、こうやって互いの家に行ったり交友は続いている。
でもそれは本当に"交友"で、俺が望むような関係には進展しそうにない。
「タルトちょーうめー!」
「売れ残りだけどな。お前が処理……喜んでくれてよかった」
「今思いっきり処理って言ったよね!?売れ残り処理してくれて嬉しいってか!」
「そりゃあ捨てられるより食ってもらった方が嬉しいだろ。……そんなんでも、お前は喜んでくれるしな」
「……っそ」
たまに向けられる優しい顔。たったこれだけのことで俺はドキドキして、堪らない気持ちになる。
「…自分で食えばいいじゃん」
「甘いもんは好きじゃねぇ」
「………なんでパティシエなったんだよ」
わざわざ海外にまで修業に行ったのに、よくわからない奴だ。
宅呑みだと酒に限りがあるから、馬鹿みたいに酔わず程よく体が火照って気持ちいい。
飯もなくなり、つまみも底をついてきた。
「まだ何かいるか?」
「そうだな……。そろそろお前の卵焼きが食いてぇ」
「好きだねぇ卵焼き。いっつもシメはそれだも、ん……な?!」
「銀時!!」
思っていたより酔っていたようで、立ち上がった瞬間体が傾く。テーブルに頭をぶつける、そう覚悟した。
「……っぶねぇ」
「ぁ、わ、悪ぃ土方」
あとテーブルと数センチというところで土方に抱き留められた。
ドキドキと脈打つ胸が、土方の腕の中にいることをだんだんと頭に理解させる。
「…あ、のさ、もう、離しても大丈夫だから」
「ああ」
返事をしても一向に離してくれない土方に、なんだかこの状況でいてはいけないような、焦りにも似た感情が襲ってくる。
体を離そうと肩を押しても、さらに強く抱き込まれるだけで、全く効果はなかった。
「土方…?」
「……銀」
ふいに合わさった視線に、優しく……甘く呼ばれた名前。
閉じられていく瞼が、やけにゆっくりと感じられた。
ちゅ…――
「―――っ!!」
ドンッ!
「銀と――…っ!」
「さわんな!!」
土方を突き飛ばして逃げるように玄関を出た。
何が起きたのかわからなかった。ただ、触れ合った唇の温かさだけがいつまでも消えなかった
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