錯覚のようで真実
※現代パロ
もう大分前に買った安物の扇風機は、結構ガタがきていて首を振る度にギーギーと音をたてた。
そんな扇風機の前で俺たちは別れの挨拶を交わしているんだから、俺たちも大分ガタがきてる。
「じゃあな。元気でやれよ」
「うん、そっちもね」
トシに他に好きなやつが出来たと云われたのは三日前のことだった。
トシとはもう長い長い付き合いで、それこそ生まれた時からずっと一緒にいて、気付いたらお互い好きになってて、気付いたら付き合ってて一緒に暮らしてた。
でもトシに他に好きな人が出来たならしょうがない。
このアパートはこのまま俺が住んでいいらしいから、じゃあいいかと俺はあっさり別れに合意した。
「じゃあまた連絡するわ」
「ああ、じゃあな」
バタン、とドアが閉まってトシは出ていった。途端に静寂がひとりぼっちになった自分を包み込む。それを振り払うように急いでテレビをつけた。
俺はちゃんとうまく笑えていただろうか。
あっさりと別れを認めた振りをして自分の感情を必死に殺した。
俺がトシを好きなのは変わらない。
でもトシは変わったんだ。
そんなトシを、俺が縛っておく権利はない。
トシが出ていってしまった今、俺は本当にひとりぼっちだ。親はどこにいるかも分かんないし、フリーターの俺は会社の知り合いもいない。
ひとりぼっち。
寂しい。
「……いかないで」
ふいに出てしまった本音は、あっけなく静寂に呑まれていく。
それがどうしようもなく怖くなって、いつか自分までも呑み込まれてしまいそうな気がして、逃げるように俺は急いでトシを追いかけた。
靴を履くのも忘れてひたすら恋しい背中を追い続ける。
やっと追いついた背中がぴくりと驚いたように跳ねて、振り向かないうちにその背中に抱き着いた。
「……銀時?」
「…いかないで…………いかないでトシっ、俺、トシがいなきゃひとりぼっちだよ」
「銀、」
「いかないで……好きなんだよ、トシ」
トシのお腹にまわっていた俺の手にトシの一回り大きな手が添えられる。
あ、トシの温もりだ。
そう感じた時にはもう、俺はトシの腕の中にいた。
「よかった」
「トシ?」
「お前、俺が好きな奴できたっていったらあっさり引き下がるから、もう俺のことどうでもよくなったのかと思った」
「そんなことないよ。俺はずっとトシが好きだよ。トシは?トシは俺を好き?」
「好きだよ、銀時」
トシがいるから俺は安心できる。
トシ以外の人がいたって、トシがいなきゃ俺はずっとひとりぼっちだと感じちゃうんだ。
それくらい、トシが好きなんだ。
トシが幸せになるなら、俺の気持ちなんて抑え込んじゃえばいいと思えるくらい、トシが好きなんだ。
錯覚のようで真実
(もうひとりぼっちにしないでね)
(約束する)
20110706
-23-
[back]*[next]
bookmark
BACK
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -