クロッカスの恋時雨
「土方警部、坂田さん…寝てますけど…。」
………何、寝てんだアイツは。
本日、午前3時。
川沿いで遺体が発見された。
ここ一ヶ月続く、通り魔事件を担当としていた俺と同期の坂田は、何か関係があるかもしれないと足を運んで来てみたというわけだが。
(またか……。)
スヤスヤと気持ちよさ気に木陰で居眠りをしているよく目立つ銀髪。これが俺のスタイルだと和洋折衷なその衣服がまたさらに目立つこと。
いかんせん、我が相棒殿はサボり癖が過ぎる。
居眠りなんて日常茶飯事。
こないだなんて事件をほったらかして近くのパフェの情報なんて集めて来た、いるかそんな情報。
どーやったらあのぐうたら癖が治ることやら。それが目下の俺の悩みである。
ひとつため息をついて少し離れたその木陰にズンズンと歩き出す。
ふわっふわに揺れる銀髪は実に気持ち良さそうだが。
仕事は仕事。
俺は容赦なく脳天にゲンコツを食らわせた
「っと、あぶな…っ!何すんだクソマヨラー!!!」
かわされる。
相変わらず気配に敏感なヤツだ。
「クソはてめぇだアホ。現場で居眠りたぁいい度胸してんじゃねぇか?」
「うっせーなぁ、お前は俺のかーちゃんかよ。今行こうとしてたのに―。」
「嘘つけ!!!」
ぶーぶーと文句をいいつつ、立ち上がる。
全く…文句を言いたいのはこっちだというのに。
「!!……やべ、立ちくらみ……っ、」
「!!おいっ、」
突然傾いた身体を咄嗟に受け止める。
特有の強い、甘い香りに、下半身が疼くのが分かった。
(……!、)
いけない。
これ以上は。
歯止めが効かなくなる
「……危っね―。あ―、助かっ…うおっ?!ちょっ、突然離すなよ!あぶねーだろっ!」
「………、行くぞ。」
「は?あ、おい…土方?」
キョトン、とこちらをみるその純粋な瞳にひどい罪悪感に苛まれる。
見るな
見ないでくれ
汚い俺を、見ないでくれ
そろそろ…、限界なのだろうか。
もう随分前から、この歪んだ感情と俺は闘ってきた。
初めて近藤部長に、二人で組んでみろと言われた時には既に。俺の心はこの男に一瞬で支配されていた。
(……結局、捨てきれねぇままか……。)
銀時とのコンビは、思いの外やりやすかった。
指示を出す俺の意図を汲み取って動く銀時に、そんな銀時を好きに動かせるよう他に指示を送る。
息も自然とあったし、二人で名何度も表彰台にのった。
その度、むかつくけど最高の相棒だと笑う銀時に、
俺は静かに、傷を深めていた
何度捨てようとしたことか、だけどその度笑顔を向けてくるアイツに感情はまた引き戻される。それを繰り返して…結局、3年間も俺はずっと、コイツを…
相棒で、一番の友達を……。
好きで居続けてしまったんだ
「まぁた、空振りか。」
「…………。」
「…………、」
二人だけの資料室。
パラパラとめくる紙の音だけが響く。
結局関係がなかったあの遺体はただの事故だと処理された。
もうこの事件を担当してから、1ヶ月がたつ。
そろそろ本腰入れて捜索をしなければならないことは、分かっているはずなのに。
……情報が、何も頭に入って来ない。
はたして資料を見ている意味はあるのだろうか。
「、土方さぁ…」
「、あ?な、なんだ…?」
「………土方はさ…、叶わない恋ってしたことある?」
「は?」
突然、なんだ……?
「……叶わないって、なんだ。身分違いとかか?」
「……ぷっ、極端過ぎるって。ん―、例えばね―、兄弟とか―。あ、」
「男同士とか。」
ドクン、と心臓が跳ねた。
思わず銀時を見る
まっすぐに向けられたその瞳と目が合った。
意外にも真剣な銀時の赤い瞳。
吸い込まれそうだ、
いや、いっそ、吸い込まれてしまえばいいのに
この醜い感情ごと、消しさってくれればいいのに。
「……俺は…、」
叶わない、恋――。
男同士、警察官。
他にもたくさんのしがらみが俺を縛り付けている。
叶わない、叶えようとすることさえ許されない。
俺はなんて答えればいい?
銀時は俺に、なんて答えを望んでいるんだろうか。
真剣な、銀時の瞳は俺を責めているかのようで。
俺は逃げるようにその視線から目を反らした。
「……な…い、な…。」
「ふーん…、」
「お前はあるのか」
「うん、俺、土方くん好きだから。」
「そうか……………え。」
え?
ちょっ、え?
今なんつった?
勢いよく銀時を見たら、ニヤリと笑われた。
笑顔でゆっくり近づいてくる銀時に俺はパニックのまま、うろたえることしかできない
「え、お前……え。」
「なぁ、土方くん」
「え?あ……な、なんだ…」
「叶わない恋を叶える方法って知ってる?、」
「………え、」
なん…、と言ったところで言葉が切れた。
唇に感じる温もり。
甘い香りが、俺を包み込む。
パニックをしていたはずの頭が。
一瞬でクリアになる。
俺の本能が、顔をだした
「……ん、」
後頭部に腕を回して押さえ付ける
口唇をわり、絡めとり、深く混じあわせた。
甘い吐息。
こいつは全部が甘いのか。
少し離した唇から漏れる吐息さえ、今はもったいない。
「ん…は…ぁ……土方、」
「………、」
近い吐息に、目眩がする
まだ、足りねぇよ、銀時
「土方っ。」
「んだよ」
「知ってる?恋泥棒は罪が重いんだよ」
「……は、」
ちゅっ、軽いキスをされる。
「だから、お前終身刑ね。」
そういって挑発的に笑う銀時に一瞬呆気に取られた。
終身刑、か……。
ニヤリと口角をあげる。
「上等だ。」
いくらでも、いつまでも一緒にいてやる
だから今は。
その甘い誘惑に酔わせてくれ
(ずっと、離れないで。)
(それが君にかせる罰。)
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