今だけでいい
「俺、東京に行くんだ」
「え」
「別れよう」
「…は」
早く大人になりてえなあ。
それが高校三年生の俺の口癖だった。それをいつも隣で聞いていた土方は、俺は子供のままでいいと笑って言っていた。
それなら、俺も子供のままがよかった。
見送りには行かない。そう決めていた。土方は出発する日を教えてきたが、来てほしかったのか来てほしくなかったのかは当日になった今では分からない。
俺の家に大量にあった土方の私物はきれいさっぱり無くなっていた。早く持って帰れ、と言っていたのに、無くなってみると部屋がいきなり殺風景に見えた。
ああ、ほんと、俺らしくねえよな。
ケータイを開けると指が勝手に動く。もう覚えてしまっている番号。
『もしもし』
「…」
『…銀時?』
早く大人になりたかった。自由に生きたかった。男どうしだとか、そんなこと気にせずに、堂々と土方と一緒にいたかった。
「別れねえよ」
『銀、』
「別れてなんかやらねえよ」
誰に何を言われても、そばにいたかった。
「だから、」
『銀時』
「なんだよ」
『…いつになるか分かんねえけど、迎えに行くから』
「…うん」
その言葉は嘘かもしれない。何年もたったら、お互い気持ちが変わっているかもしれない。
でも今はまだ、お前以外考えられないから。その言葉を信じるよ。
『あいしてる』
土方の声は少し掠れていた。
-9-
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