君の近くで 2/2
就業時間が過ぎても片付かない仕事が残っていたから、パートタイマーの従業員や他な正社員は先に帰らせ、事務所に残ってパソコンに向かっていた。
そこになぜか坂田店長も残っていて、特に今日中に終わらせなければいけない仕事があるわけでもないのに、俺と背中合わせの席に座り、机に書類を並べて何かしている。
「帰らないんですか?」と聞くと、「うん、ちょっと」と曖昧に返事をして、ぱら、と静かに手元の資料をめくった。
坂田店長が、先ほど既にタイムカードを押していることは知っている。俺も個人的な残業だからと、無駄な経費がかからないよう退勤を押してから残っている。
「土方さんさぁ、」
「何でしょう」
「次の周年祭のイベント何か考えてる?」
「ええ、一応、夏休みに向けての図画工作セット売り場の展開と、作り方講習会で子ども達と実際に作ってみるイベントは考えてます。あと、海水浴関連商品の期間限定特売とか」
「それどこでやる?外に特設作る?」
「講習会と海水浴関連は、それで考えてますが」
「だったらさ、外でアイスクリームとかき氷やりたいなぁ」
「…食べ物は危なくないですか?この時期、食中毒とか。あと、誰かが付きっきりになりますけど」
「ああ、それなら、俺は調理師免許持ってるから大丈夫だよー。それと、パートの幾松さん、前にラーメン屋で3年くらい勤めてたらしいし」
「いやラーメン関係ないでしょ」
つーか、坂田店長が調理師免許持ってることに驚きだ。思わずキーボードを叩く手が止まった。
一体、今までどんな人生歩んできたんだ?何で今、雑貨屋の店長なんかしてんだろう。
いろいろ聞きたいが、何となく馴れ馴れしい気がして聞けない。坂田店長とは仕事の話はするが、プライベートで話したことなどほとんどない。
なまじ店長と課長という役職柄、どちらかが店に居ないとならないため、休憩時間も休日も滅多と被らないし、何より、俺自身が、坂田店長へと密かに抱いている邪な感情を抑えるために、こんな風に彼と2人きりになることを意識的に避けていた。
…それなのに。
「アイス、外で一緒にやらせてよ。土方さんと一緒に仕事すんの、何か楽しいからさ。ちょっとでも近くで仕事してぇんだ」
何で、そうやって無防備に、だけど無遠慮に俺ん中に入ってくんだよ。
再びキーを叩く指を止めて、今度は、ゆっくりと俺の後ろに座っている坂田店長を振り返った。
揺れる紅い瞳と目が合う。
「…それ、仕事だけですか?」
「そう思う?」
「誤魔化さないで下さい」
「……土方さんの、いつもピシッと整ったネクタイとか、何にでも几帳面なとこが好き」
たぶん最初から好きだったと思う、と呟いて、坂田店長は俺に近づき、俺のネクタイをしゅるりと解いた。
「でもさ、あんまり綺麗に整いすぎてる物って、崩したくならない?」
俺の首から抜き取ったネクタイに口づけて、悪戯っぽく笑う。
…ああ、ダメだ。
「…元から崩れてる物は、もっと崩したくなりますしね」
誘うような笑顔に理性を奪われ、相も変わらず緩く締められた坂田店長のネクタイを、ゆっくりと解いた。
本当は、几帳面な俺の気を引くために、わざとネクタイをだらしなくしていたり、ネームプレートも傾いたままにしていたんだと、後で銀時は笑った。
明日からは、銀時…もとい、坂田店長の緩いネクタイは俺が締め直そう。
お望み通り、少しでも彼の近くに寄り添って。
END
-7-
[
back
]*[next]
bookmark
BACK
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -