シリーズ | ナノ

 2話



体がだるい
もうとっくに起きているのだが体がベッドから動く気配が湧いてこない
待っていてくれるリスナーには申し訳ないが携帯からTwitterを開き今日も配信は無いことを伝える

「だるまだるま、今日もベッドで過ごすのか?」

「おー...」

「いつものパソコンとやらに向かって喋るやつはやらないのか?」

無邪気な顔をしてだるまの顔を覗きこむナマエ
ナマエは日本というかこの世界の事についての知識は皆無だ
どうしてここに来たと聞いても「気がついたらここに居た」「わからない」と答えは決まっている
見た目は幼くどうみてもだるまより年下で可愛らしいが年齢は50は超えているらしい

だるまが適当な返事をしている間もナマエはずっと喋りかけてくる

「どうして最近元気がないのだ?何か嫌な事でもあったのか?」

「...!お前が毎度毎度アホみたいに血吸ってくるからやろ!」

普段は怒る事なんて無いに等しいが体がだるく調子も出ずつい怒鳴ってしまった

ナマエのびっくりした後のしょぼくれた顔を見てやってしまった、と思った

「...いや、言い過ぎた」

「人間は血を吸いすぎると元気が無くなるのだな」

先程まで無邪気に喋りかけてきたナマエは顔に影を落とすと大人しく寝室から出ていった

「...人間は酷く脆い」

去り際の声はだるまには聞こえなかった



額に冷たさを感じ二度寝していた目をそっと開けるとナマエの顔が見えた

「ナマエ?」

「起こしてしまったか?」

「いや、これナマエが?」

「うむ、人間は元気が無い時はとりあえずこうするといんたーねっと?とやらに書いてあった」

額に水を含ませたタオルがやけに暖かく感じた
世間を知らぬ少女が自分の為に看病とまではいかないができる限りの事をして傍で見守って居てくれた事に懐かしさと嬉しさを感じナマエの頭を優しく撫でる

「もう起きて平気なのか?」

「おう、大分元気なったわ。ありがとう」

「そうか!今度は料理とやらも作れるようにするぞ!」

「まさかお前...」

「キッチンへは立ち入っていない!禁止だと言われたからな!」

よかった、とホッと心を撫で下ろす
以前料理をしようとした時ナマエは大惨事を引き起こしていたから

ナマエは世間知らずだが物分りは良い
ダメだと言えば同じ事は繰り返さないし従順だ

「ええ子やな、また今度料理教えたるわ」

「キッチンへ入っていいのか!?」

「俺と一緒の時だけな」

ナマエの頭を撫でながら笑うとナマエはやったー!と子供のように喜ぶ

ナマエと一緒にいるようになってからやけに口角が上がる

「怒鳴って悪かったな」

「だるまから嫌われていなければ平気なのだ」

あぁ、これだから、こんなにも自分の一挙手一投足で幸せそうに笑うものだから傍に置くことをやめれない


それからナマエは血を吸ってこなくなった
体も調子を取り戻し配信も着けるよになった
相棒とも言えるありさかを含めリスナーからはいつもの失踪だと思われながらも心配の声も上がっていた
勿論ありさかや他の配信者にはナマエの事は教えていない
深く考えなかったのもあるが何を言われるか分からなかったからだ


いつもの配信が終わり配信を切ってから今日コラボしていたありさかとダラダラと喋っていた

「前までお前元気無かったからちょっと心配しとったわー」

「なにありちゃん心配してくれてたん」

「うるさ、しとらんしとらん」

今度の配信はなんのゲームをやろうか、なんてだべっていたら部屋の外からドタンっと何かを倒したような大きな音が聞こえてくる

「ごめん、ちょっと抜けるわ」

一言断りを入れてから席を立ちドアを開けると廊下にナマエが倒れていた

「ナマエ!?ナマエ!?」

ぐったりとしていて顔色も青白い名前を呼びながら抱き抱えて方を揺らすと小さく応答は帰ってきた

「どうした!?熱は...無いな、どっか具合悪いんか?」

体も熱くないし何処か怪我した様子は無い、更に吸血鬼の体調の善し悪しなど分からない

「平気だ、死には...しないのだ...」

弱り掠れた声が聞こえる

「俺は何をすればいい?」

「少し...眠る」

そう言ってナマエは目を瞑った

知り合ってそう長くもないが短くもない
その間にナマエの存在がこんなにもだるまの中で大きくなっていたのだ
焦燥感が胸を霞み不安感が膨れ上がる

抱き上げたナマエはだるまでも持ち上げれるほどに軽い
ベッドに優しく横にすると額に水を搾ったタオルを置いておく

あと他にはお粥とか...と、考えていた時にディスコードを付けっぱなしにしていた事を思い出す

部屋に入り椅子に座ってヘッドホンを付け直す

「悪い、ありさか、今日はちょっと切るわ」

「... ナマエちゃんって誰?」

「えっ」

心臓を掴まれた様にドキッとした

「さっき叫んでたん聞こえた」

「あぁ、すまん」

「何?彼女?」

「そんなんちゃうわ!」

高校生でもあるまいが顔がカッと赤くなるのを感じる

「彼女じゃない子家に連れ込む方が問題やけどな」

「いやそんなんじゃなくて、ほんまに」

「まぁ今度聞かせてや」

「お、おん」

じゃあ、とディスコードを切る
これは不味い事になった
ありさかにナマエの存在がバレてしまった上に関係性を疑われている
勿論いかがわしい関係や手を出したことも無い自分は潔白だ
潔白だが故に関係性を聞かれて困った

_俺とナマエはどんな関係?

なんて説明すればいいんだと悶々としながらも倒れたナマエの様子を見に寝室へ行く

青白く浅い呼吸、ナマエは丸2日経っても目を覚まさない

「ナマエ...」

だるまはネットで吸血鬼について調べてみた
丸2日は流石に何かしら問題があるはずだと

「...吸血不足...」

いくつかネット記事を読み漁ってピンとくるものが一つだけあった

ナマエがだるまの血を吸わなくなって1週間以上は経っただろうか

寝室へ行き浅く呼吸を繰り返すナマエの方を揺すると弱々しくナマエは目を開けた

「ナマエ...!」

目を開けて見つめられるだけでこんなにも嬉しく胸を満たされる気持ちになるのか
さっきまでもぬけの殻だっただるまは嬉しそうにナマエの名前を呼ぶ

「ナマエお前血足りてないんちゃうか?」

「...なぜ」

「色々調べてみた。飲めよ、俺の」

「い、嫌だ」

「はぁ!?」

ついこの間まで理由もなくチューチューと嬉しそうに飲んでいたくせに顔を背いて嫌だと言い張る少女に苛立ちを感じる

「なんでやねん!血吸ったら元気なるんちゃうんか!?」

「だるまのは...いやだ」

その一言で遂に沸点を超えた
怒りなのか悲しみなのか感情がぐちゃぐちゃで分からないが無言でドスドスと足音を立ててキッチンから包丁を取り出す

包丁を片手に寝室へ帰ってきただるまは無言で腕の外側を切った
傷口から血がこぼれ落ちる

「飲め」

「い、嫌だ!やめろ!」

「ええから飲めって言っとんねん!」

嫌がるナマエを軽く羽交い締めにして切って血が滴る腕をナマエの口に捩じ込んだ

やっとこくり、と喉を鳴らして血を飲み込んだナマエ

これで少しは体調が治るだろうか、と胸を撫で下ろした瞬間ナマエは目から涙を流した
その事にびっくりしただるまは思わず腕を退けた

「そんなに...俺じゃ嫌やったんか」

「ウッ、だるまは...弱いから、ダメなのだ」

「弱いってなんやねん」

「人間が脆いことは知っていた、でも、でもだるまは、だるまだけは嫌なのだ...元気がないだるまは嫌なのだッ...」

心臓を掴まれるとはこの事を指すのだろうか
だるまは言葉にならない気持ちが全身を巡るのを感じた

世間も何も知らぬ少女が自分を思い特別だと認識しナマエなりに自分を労わっていた事に体が痺れた

「...ドアホ」

どうか声が震えている事に気づかれませんように
どうか泣きそうになって目が潤んでしまっている事に気づかれませんように






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