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友達は、みんな羨ましがる。

ほとんどの人が、カッコイイねって言う。

私も初めの頃は、みんなと同じようにカッコイイと思っていた。

でも最近の私は、それをもどかしいと感じることのほうが多いかもしれない。






「…だな」


学校からの帰り道。

ふたり並んで歩くのは、いつもの光景。


「え?」


隣の蓮二先輩を見上げ、私がそう首を傾げるのもいつものこと。


「ああ。すまない。そろそろ雨が降りそうだなと言った」


今朝の天気予報では、午後からの降水確率が60%だったからな。


私に見上げられた先輩が、立ち止まって視線を合わせるように少しだけ身を屈めて喋る。

それも、いつものこと。


「はい。降られないうちに、少し急いだほうがいいですね」

「ああ、そうだな」


先輩が私の言葉に頷いたのを確認して、私たちは再び歩き出す。

真っ直ぐ前を向いているふりをしながら、隣を歩く先輩の歩幅を横目で見てしまう。

その長い足には、似つかわしくない狭すぎる一歩の幅。

隣を歩く私に合わせて、いつもゆっくりと歩いてくれている。

背の高い先輩と、小さな私。

ふたりの歩幅は必然的に違ってくるから、私と並んで歩くために先輩がいつも合わせてくれる。

先輩のさり気ない優しさ。

それが本当に嬉しくて、毎日、先輩のことが大好きって気持ちは増えているのに――。


「…ですね」

「すまない。今、何と?」


今度は、私の言葉に先輩が立ち止まって首を傾げる。


「ごめんなさい。明日は、晴れるといいですねって言いました」


立ち止まった先輩の一歩先で私も立ち止まり、再び先輩を見上げた。

もう一度伝え直してから、思わず零れそうになったため息を飲み込みたくて視線を戻す。

俯いたりしなくても、普段の視線の高さに戻すだけで、先輩と目が合うことはない。

背の高い先輩と、小さな私。

意識して見上げなければ、先輩と目も合わせられない。

話し声も、よく聞き取れないことが多い。

それが、本当にもどかしくて。

背が高くてカッコイイねとか、私も背の高い彼氏がほしいとか、友達はみんな口々に羨ましがるし。

私も初めの頃は、背が高くてカッコイイなと思っていた。

でも最近、私にとって先輩の背の高さは「嬉しい」よりも「もどかしい」ことばかりだ。

誰のせいでもないって分かっているのに、もどかしくて悲しくて仕方ない。


「…のに」


思わず呟いた言葉は、先輩の耳にはやっぱり届かなくて。


「静?」


先輩が、私と目を合わせようと屈む姿が視界の端に移る。

それさえももどかしくて、私は先輩の視線から逃れるように、俯いて地面を見つめた。


「――私の背が、もう少し高ければよかったのに」


込み上げてくる涙を必死に我慢して呟いた言葉に、先輩が困ったように息を呑む音が聞こえる。

身長なんて自分でもどうしようもないことくらい分かってるのに、声が届かないことが、目を合わせられないことが、もどかしすぎて仕方なかった。

小さな私に歩幅を合わせてくれる先輩のさり気ない優しさに、日に日に先輩を想う気持ちが増えているからこそ、余計に悲しかった。


「静が、どうしても背を高くしたいというのなら、俺がいくらでもアドバイスしてやるぞ。――ただ、俺としてはお前には今のままでいてほしいがな」


僅かな沈黙の後、先輩がポンっと私の頭に軽く手を乗せながら言った。


「…どうして、ですか?」


――ただ、俺としてはお前には今のままでいてほしいがな。

そんな思いもかけない一言に驚き、俯けていた顔を少しだけ上げたら。

予想外に先輩の顔が間近にあって、ドクンっと心臓が大きく跳ねる。


「…さて、な」


答えを誤魔化すように静かに微笑んだ先輩は、溢れそうな涙を吸い取るように、そのまま私の目元にそっと唇を寄せた。

そんな先輩の行動に、私の心臓はますます騒がしくなってしまって。

結局この日、先輩が今のままの私でいてほしいと思っている理由は、知ることができなかった。




(お前が俺を見上げるときの上目遣いが好きだということは、もうしばらく秘密にしておこう)




私がそんな先輩の本音を知るのは、まだまだ先のこと――


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2010.01.29 PC版初出。

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