黒ノ淵藪


 昼間、人通りの少ない路地裏で男達に追いかけられている少女を助けた。

 だが僕の振る舞いにすっかり怯えてしまったのか、それとも特高という職業に嫌悪を感じているのか、何も言わず逃げるように立ち去ってしまう。いつもの事とはいえ、胸がツキリと痛む。

 それよりも、目の前が霞み油断すると倒れそうになる、こちらの方が問題だろう。体調不良、自己管理の怠慢か、疲れた体がひどく重い。その上、バディであった直也先輩がもういない為、今の自分は一人きり。誰に連絡を取る事も出来ず、望まないままゆっくり意識を手放してしまう。


 どこかで聞いた声で目を開くと、昼間の男達が目に映る。あの時と違うのは夕暮れ時で辺りは暗く、さらに大勢の人数を引き連れていた。主犯格の男は昼間の仕返しだとばかりに、まだ覚醒しきっていない僕に蹴りを入れる。ほかの男達も後に続く。さんざん暴行を受け朦朧とする中、意識は深く沈み込む。


 次に目を覚ましたのは冷たい床の上。昼か夜かも分からない暗さとカビくさい匂いから察するに、多分ここは地下室だろう。やっぱり僕は捕らえられてしまったらしい。起き上がろうとするとジャラリと鈍い音が響く。その方向に目をやると両の手、後は首にも枷をはめられている。到底、間を繋ぐ太い鎖を引き千切る事は出来ない。黒い制服は皺になり、色んな所に汚れが付いていた。

「お目覚めかい? お坊ちゃん」

 頼りない蛍光灯の明かりと共に現れる、嘲りを過度に含む声の主は少女を狙ったあの男、三度目の邂逅を遂げたができればもう会いたくなどなかった。

「お前のせいで今日は娼館に行けねえから、代わりに相手をしてもらおうか。暇つぶしにはちょうどいい」

 さっきから、まるで値踏みするような嫌な感じの視線が纏わり付き、思わず体がぶるりと震えた。逃れようにも顎を強引に持ち上げられている。

「さてと。おい、その前にアレを飲ませろ! 暴れられると面倒だ」

 目の前の液体は、動きを封じる為の薬。少なくともまともな代物ではないだろう。

 冗談じゃない!

 飲み込まないように抵抗するが、鼻を押さえられ、苦しさからつい、口を開けた隙を奴らは逃さなかった。強引に流し込まれ、受け入れたそれは喉を伝い落ちていく。

「せいぜい可愛く啼いてくれよ、でないとつまんねーからな」

 着衣は引き裂かれ、素肌は好奇の目に晒された。ごくりと唾を飲む音がした後、一斉に幾つもの手が体中を這いずる。嫌悪感しか湧かないのに、身体の熱だけは煽られ跳ね上がってゆく。

「男のくせに、コイツ肌理が細かいつーか、触ってると吸い付いてくるみてえだ」

「色も白かったしな。胸弄られて感じてるのか? 乳首立ってきたぞ」

 触れられている所が無い位、執拗に纏わり付く。いや、そんな生易くない。あからさまな意思を持って掴み、抓ねられ、捻られた。執拗に舌で舐り、指で捏ねられた胸の尖りも俺自身も熱を持ち真っ赤に熟れ、てらてらと妖しく滑る。

 空いている両手と口内も、赤黒い肉の根で無遠慮に埋められた。慣れない手つきで擦り舌で舐め刺激を加えると、勝手に膨張し更に凶暴になっていく。順番待ちをしている男達も俺を見ながら自身を慰め、吐き出した白濁で全身を汚す。顔も髪も余すこと無く掛けられる。

 べったりと粘る白濁が頬を伝い床に滑り落ちる、それは遠い昔に置き去りにした何かを思い、泣いている涙のようにも思えた。

 他人に見られた事の無い箇所に節くれた堅い物が進入する、男の指が執拗に蠢き穴を広げていのだと知った瞬間、眩暈がした。痛みに拒否を表し無意識に締め付けて動きを拒むと、舌打ちをし萎えた陰茎を刺激して無理矢理高みへと跳ね上げる。それでも何も受け入れた事の無い箇所はあまり解れない。

「だらだら面倒だ、このまま入れちまえよ」

 思い切り脚を広げられ固定される。メキメキと音をたて、突き入れられた男根は今までの非では無い。排泄以外に使うはずの無いそこは強引に咥えられて当に限界を訴え、裂けた箇所は傷となり血を流している。皮肉にも流れ出たそれが潤滑剤となり、容赦なく突き進む。最奥まで到達しゆっくり引き抜くと、鮮やかな赤い筋を残しますます不気味に彩られる。

「ふう……処女を犯すのはいつでも、良いもんだな」

 男は殊更下卑た笑い声を上げ、後は狂ったように腰を打ち付ける。秘口は鮮血が泡立ち、水音と肌がぶつかる音が辺りを支配する。

 本当に狂ったのは自分かもしれない。始めこそ痛みに下がっていた自身も、今は再び頭を擡げ、歓喜の涙を流し続けている。次々と突き出された欲望の塊に何の抵抗も無く、舌を這わせしゃぶり、淫らな声で啼きながら何度も己が身で迎え入れた。


 かつての清廉な哲の姿はもう、どこにもいない。それを苦しいとも悲しいともさえ思う感情すら、置き去りにしたままで、儚く消えてしまった。

2017/05/11
----------------------------
▲text page