百年の孤独
俺の想い人は、まだ幼さの残るあどけない眠り姫だった。
なぜ過去形かと言うと、彼女は既に眠りから覚め、今は元気に日々を過ごしているから。肉体を置いたまま精神のみが先に目覚め、事情を知らない人から見ればまるで幽霊のような姿の時も有ったけれど、今は割愛しておこう。
では、何故眠りにつかなければならなかったのか?
それは、彼女が不治の病に侵され、このままでは死に至る。それを何としても防ぎたい両親から魔法をかけられ、時を止められたからだ。いつかきっと完治する、遠い遠いその日が来るのを信じ、愛娘は封印された。
時を超えたその祈りは、願いは、確かに叶っただろう。たった一本の注射と、自分を知る人はどこにも居なくなってしまった、百年という少女には重い時の隔たりを引き換えにして。
病が癒えたのは確かに喜ばしいし、二親の自分への愛も感じたのだろう。だけど、知っている全ての人に置いて行かれた悲しみも同時に与えてしまった事は、皮肉としか言いようが無い。
それまで恋愛に憧れる少女の、 背伸びしたい年頃の妹の様に思っていた彼女の、泣き濡れた顔で寂しさを吐き出したローラを見て、俺は恋に落ちてしまう。
エメラルドを思わせる翠の瞳からはらはらと散る涙が綺麗だけど、悲しみから溢れるそれを自分が拭ってあげたいのだと、そう思ってしまったから。
喪失の傷痕を癒す事は出来なくても、せめて君は一人ではないのだと。これからも俺が側に居るとそう教えてあげたくて、小さく華奢な体を抱きしめた。
『ーー離さないで、離れないで、一人ぼっちはもう嫌だよ。お兄ちゃん』
眠りから覚めた姫は幸せにならなければいけない、そうじゃなければ目覚めた意味が無い。
「側にいるよ、ローラ。寂しくなったらいつでも呼んで、すぐ君の元に駆けつけるから」
桃色の長い髪を梳きながら約束だと指切をし、彼女の言うデートの約束を取り付けると、ようやく泣き止んでくれた。
今はまだ無理でも、いつか心から微笑んでくれ。
少女の時間は案外短いのだから、今をできる限り楽しんで。後は気長に待つから、もう少し大人になったら俺の、俺だけの姫君
になってもらうよ? ローラ。
あなたに寄り添う、
私でありたい。
2017/10/03
----------------------------
▲text page